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◆ H23.11.08福岡地裁判決
金融法務事情1951号137頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
被告銀行との間で、変額個人年金、仕組債、投資信託、外貨預金に関する契約(本件契約)を締結した原告は、被告銀行の行員が原告の理解できない金融商品への投資を勧誘したことにより被害を被ったとして、本件契約の錯誤無効を主張し、また、本件仕組債の勧誘に関しては重要事項についての不利益事実の不告知および不実告知があったとして法4条に基づき契約を取消したと主張して不当利得の返還等を請求した。
【判断の内容】
錯誤無効の主張については、被告銀行の行員が原告に渡した書類等において、満期や早期償還の可能性があることが記載されていることから、原告が錯誤に陥っているとはいえないとした。法4条に基づく取消しについては、本件各仕組債に関する満期、利率、元本割れの可能性等、リスクに関する具体的な説明が原告に対してなされていること、また、販売資料および目論見書に満期が明確に記されており原告が満期を誤認することはないと考えられ、行員の説明が虚偽であったことを直ちに認めることはできないと判断し、本件仕組債について原告に対する不利益事実の不告知(法4条2項)、不実告知(同条1項1号)に該当する事実はないとして、法4条に基づく取消しを認めなかった。
◆ H23.10.28東京地裁判決
平成22年(ワ)第8460号授業料返還等請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 生野考司、前澤功、仲田憲史
【事案の概要】
ラインパイロットになることを目指した原告が、ニュージーランドの航空大学校で語学研修を受けた上、飛行訓練等を受けるなどして事業用免許等を取得し、帰国した後さらに事業用操縦士免許を取得して就職するという訓練システムの受講契約を被告との間で締結し、ニュージーランドの語学学校で研修していたところ、上記大学校での訓練を受けるための規定の英語能力が得られなかったことなどから、本件受講契約を解除したとして、被告に対し、前払い費用の精算として未使用授業料等の支払を求めた事案。学納金の不返還条項の効力が争われた。
【判断の内容】
① 入学金については、学生が大学に入学し得る地位を取得する対価の性質を有しており,その納付をもって学生は上記地位を取得するものとして、返還義務を否定した。
② 入学金以外の部分に係る本件不返還合意は,消費者契約法9条1号の損害賠償の額の予定に係る合意であるから,解除の事由,時期等の区分に応じ,本件契約と同種の契約の解除に伴い被告に生ずべき平均的な損害を超えるものについては無効であるとして、施設費、学費・訓練費、滞在費、寮費等の一部について返還請求を認めた。
◆ H23.10.27東京地裁判決
平成22年(ワ)第13457号敷金返還等請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 和久田道雄
【事案の概要】
マンションの貸室を目的とする賃貸借契約に関し、同貸室を退去した原告(当時司法修習生、現在弁護士)が、賃貸人である被告に対し、造作買取請求権不行使特約、礼金及び更新料の各支払特約、敷金から清掃費用を控除する旨の特約は消費者契約法10条に反し、無効であるとして、造作買取代金の支払、各既払金員相当額の不当利得返還、敷金のうち返還を受けた部分を除いた残額等の各支払を求めた事案。
【判断の内容】
以下の理由から、いずれも請求を棄却した。
① 造作買取請求権排除条項、礼金条項、更新料条項について、当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは,消費者契約法の趣旨,目的(同法1条参照)に照らし,当該条項の性質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考慮して判断されるべき。
本件条項は、いずれも内容が一義的に明確であり、金銭的負担を明確に意識した上で契約条件を比較検討して選択することが可能であったから、信義則に反して消費者である原告の利益を一方的に害するものということはできない。
② 賃貸人は契約終了時に使用状況,清掃状況にかかわらず,清掃費用7万2093
円を敷金から控除するとの条項(敷引条項)について、消費者契約である住居用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照し,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当。
本件の場合、経過年数(4年)、賃料額、礼金額、更新料額を考慮しても、敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、無効とはいえない。
◆ H23.10.25最高裁判決
平成21年(受)第1096号債務不存在確認等請求及び当事者参加事件
最高裁HP、金融商事判例1378号12頁、裁判所時報1542号1頁、判例タイムズ1360号88頁、判例時報2133号9頁、金融商事判例1384号29頁、金融法務事情1945号90頁、消費者法ニュース91号138頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
第2審 H21.02.19名古屋高裁判決
【事案の概要】
宝飾品の販売業者との間で売買契約(本件売買契約)を締結し、あっせん業者との間で購入代金にかかる立替払契約(本件立替払契約)を締結した被上告人は、本件あっせん業者から事業の譲渡を受けた上告人に対し、本件売買契約は公序良俗に反し無効であるから本件立替払契約も無効であること、または法5条1項が準用する同法4条1項1号もしくは同条3項2号により本件立替払契約の申込みの意思表示を取消したことを主張して、不当利得の返還等を請求をした。原審は、売買契約が無効になれば立替払契約は目的を失って失効するとして被上告人の請求を認めたため、上告人がこれを不服として上告した。
【判断の内容】
個品割賦購入あっせんにおいて、購入者と販売業者の売買契約が無効となった場合でも、購入者とあっせん業者との立替払契約については、販売業者とあっせん業者との関係、販売業者の立替払契約締結手続きへの関与の内容および程度、販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無および程度に照らし、売買契約と一体的に立替払契約についても効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情がない限り、立替払契約が無効となる余地はないとし、本件ではそのような特段の事情はないとして、原審の被告敗訴部分を破棄した。法による取消権については、7条1項により時効消滅しているとした。
◆ H23.10.24東京地裁判決
平成22年(ワ)第12243号保証金返還等請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 武藤真紀子
【事案の概要】
建物賃貸借契約の終了に基づく保証金返還請求。保証金償却条項が10条違反に当たるかが争われた。
【判断の内容】
10条の「消費者契約」とは,消費者と事業者との間で締結される契約をいうと定義されるが(2条3項),個人であっても,事業として又は事業のために契約の当事者となる場合は「消費者」に該当しない(2条1項)ものであるところ,原告は,本件建物をクラブとして使用する目的で賃借し,現に,本件建物においてクラブを営業していたのであって,事業のために本件賃貸借契約を締結したものであるから,本件賃貸借契約は10条にいう「消費者契約」とはいえず,原告の主張は前提を欠くとして、消費者契約法は適用されないとした。
◆ H23.08.18東京地裁判決
平成22年(ワ)第41347号保険金請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 志田博文、杉本宏之、後藤隆大
【事案の概要】
責任開始期から2年以内の自殺は免責される旨及び保険契約が失効の後、復活した場合の責任開始期は、被告が延滞保険料を受け取った日とする旨の特約がある生命保険契約において、保険料猶予期間の末日の経過により保険契約が失効するとする本件失効条項に基づき失効し、復活条項に基づく復活による責任開始日から2年以内に自殺した被保険者の妻である原告が、被告に対し、生命保険金の支払等を求めた事案。本件失権条項が10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から本件失権条項が無効であるとして請求を認めた。
① 本件失権条項は、10条前段要件を満たす。
② 後段要件について、保険契約の継続という利益は消費者にとって極めて重要。他方、民法が履行遅滞による解除権の発生に相当期間を定めた履行の催告を要求する趣旨は、契約が解除されるという不利益を受ける前に債務者に履行の機会を付与する点にあるところ、本件保険契約における履行の催告は消費者にとって極めて重要な利益。そして、保険会社の利益は、通知コストの軽減という付随的な利益にとどまる。
従って、消費者契約である生命保険契約に付された履行の催告及び解除の意思表示を不要とする特約は,通知コストの軽減という付随的な利益のために保険保護の継続という保険契約における本質的な利益を制限するものであり,保険料の支払が口座振替によりなされる旨合意されている場合には,保険契約者が履行遅滞にあることや保険契約が失効したことを確定的に認識しうる措置等保険保護された状態を維持しうるような措置がとられているなどの特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である保険契約者の利益を一方的に害するものとして,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当。
③ 本件の猶予期間の定め、自動振替貸付制度の定め、復活条項は前記特段の事情を肯定する事情としては足りない。催告の実質を有する特則通知書を送付する社内体制となっていることだけでは、催告を不要とする根拠となるとはいえない。
◆ H23.08.10東京地裁判決
金融法務事情1950号115頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
生命保険会社Y1との間で保険(本件保険契約)を契約した原告は、媒介代理店Y2の従業員が、本件保険契約の勧誘の際、解約時の返戻金につき不実の説明を行い、また、解約による返戻金額が運用実績により振込保険料を下回ることになるリスクがあるという重要事項を告げず、さらに本件保険契約には契約初期費用はかからないなどと説明したことから、原告がその旨誤信し本件保険契
約を締結するに至ったとして、被告Y1に対し錯誤無効、法4条1項および2項に基づく保険契約の取消しによる不当利得返還請求をし、また、適合性原則違反、説明義務違反があったとして、被告Y1および被告Y2に対し、不法行為あるいは債務不履行に基づく損害賠償を請求した。
【判断の内容】
本件保険契約締結時の被告Y2の説明については、解約時の返戻金の額に関する不実の説明がなされたこと、解約返戻金額が一時払い保険料を下回るリスクがあるという不利益事実の不告知があったことのいずれも認められないとして、原告の法4条1項1号または2号による取消しの主張を退けた。
また、被告Y2の従業員は、本件保険契約につきパンフレットを読み上げて原告に説明しており、中途解約が最も大きいリスクであるという本件保険契約の特長に関し特に重点的に説明をしたと認められることから説明義務違反はないとし、適合性原則違反についても、本件保険契約の特徴、原告の経歴等を鑑みれば、被告Y2が本件保険契約を原告に紹介したことが不適当な勧誘であるとまでは認めることはできないとした。
◆ H23.08.02西宮簡裁判決
消費者法ニュース90号186頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
原告は、被告と建物(本件居室)の賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。本件賃貸借契約には、預託された敷金50万円から無条件に40万円を控除するという敷引特約(本件敷引特約)があったことから、原告は、被告に対して、本件敷引特約は法10条に反すると主張し、敷金の返還を請求した。
【判断の内容】
本件敷引特約は、敷引率が80%と高率であり、かつ、月額賃料の約4.3倍になることからすると、敷金授受目的を超えるもので高額に過ぎると評価せざるを得ず、高額な敷引金を許容する特段の事情は認めがたい。ただし、本件については、①被告は敷引金40万円以外には、更新料及び礼金等の金銭を原告から徴収していないこと、②賃借期間が6年間であったこと、③原告は、本件賃貸借契約に先立ち、本件敷引特約について説明を受け、その趣旨を十分に理解した上で本件賃貸借契約を締結していること等の事情が認められるところ、これらの事情は、敷引額を考慮する合理的な理由と認めるのが相当である。以上の事情からすると、本件敷引特約については、月額の3カ月分が相当な敷引金の範囲と解するのが相当であり、それを超える額については、敷金の性質からして、一般消費者である原告の利益を一方的に害する特約として、法10条に反して無効である。
◆ H23.07.28東京地裁判決
平成22年(ワ)第47503号不当利得返還請求事件
判例タイムズ1374号163頁、現代消費者法19号83頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 木納敏和
【事案の概要】
原告は、被告に対し、往復航空券及び3日分の宿泊先の手配を依頼し、手配旅行契約(本件契約)を締結した。本件契約の約款においては、「旅行者が手配旅行契約を解除した場合には、取消料、違約金その他の運送・宿泊機関等に関する費用を負担するほか、被告に対し所定の取消手数料金及び被告が得るはずであった取消料金を支払わなければならない」と定められていた。被告の担当者は原告に対し、本件契約を締結する際に、原告が予約手配を申し込んだ航空券について、発券後の取消し手続料金が代金の100%となることを説明し、原告に対し、この説明内容が記載されたパンフレットを交付した。原告は、旅行代金を支払い後、本件契約を解除する旨の意思表示をした。原告は、本件約款が公序良俗に反して無効であり、仮にそうでないとしても法9条1号により「平均的な損害」を超える部分について無効であると主張し、本件契約に基づき支払った金員からすでに返還を受けた金員を控除した分の返還を請求した。
【判断の内容】
本件約款は、標準旅行業約款に基づくものであることから、公序良俗に反しない。
本件約款は、①既に旅行者が受けた旅行サービスの対価、②取消料、違約金その他の運送・宿泊機関等に関する費用の負担、③旅行業者に対し、所定の取消手続料金等を定めているものであって、その内容に照らせば、「平均的な損害」の内容を一般的に定めたものと解される。そして、原告の自己都合による解除で生じた航空会社やホテルに対して支払うべき取消料・違約料に相当する額を、原告のために手配を行ったに過ぎない被告が負担しなければならない理由はないのであるから、これらの取消料・違約料相当額は、法9条1号の「平均的な損害」の範囲内のものとして、被告には返還義務が生じないと解するのが相当である、とした。
◆ H23.07.22名古屋高裁判決
平成23年(ネ)第418号不当利得返還請求控訴事件
消費者法ニュース90号188頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 中村直文、朝日貴浩、濱優子
第1審 名古屋地裁平成22年(ワ)第3100号
【事案の概要】
専門学校である被告は、入試方法として、AO入試、推薦入試、及び一般・社会人入試という3つの区分を設けていた。原告は、このうちの一般・社会人入試区分の専願入試及び学内併願制度を利用し、学内併願制度により、第2希望の学科に合格した。その後、原告は、平成22年3月15日に被告に対し在学契約解除の意思表示をし、納入した学費の返還を請求した。
【判断の内容】
被告の入学年度が始まるのが4月1日であること、定員について法令による一定の規制があること、併願受験も想定されることに照らして、大学の場合と別異に解するべきではない。
被告においては、早期に一般入試と異なるAO入試および推薦入試があること、一般・社会人入試の「専願」と「併願」はほとんど差異はなく、一次募集、二次募集および欠員募集合わせて計10回が予定されていること、被告においては、学内併願制度を設けており、第1希望の学科が不合格であった場合に自動的に第2希望の学科の選考が実施されることになっており、原告もこれにより合格したものであること、そして、原告が受験した学部の入学者は、欠員募集による入学者を加えても定員に満たなかったことが認められる。
以上から、原告が受験した区分の専願入試は、他の受験者よりも早期に有利な条件で入学できる地位を実質的に確保しているとも、また、学生が在学契約を締結した時点で、被告に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予想されるとも認めがたい実態にあるというというべきであるから、その在学契約の解除の意思表示が3月31日までになされた場合は、被告に生ずべき法9条1号所定の平均的損害は存しないものと認められるので、本件不返還特約は無効である。そして、原告が3月15日に解除の意思表示をしたことは明らかであるので、被告は原告に対し本件学費を返還する義務を負うとした。