「不当勧誘」カテゴリー|消費者契約法判例集
◆ H23.03.17東京地裁判決
平成21年(ワ)第28066号債務不存在確認等請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 矢作泰幸
【事案の概要】
貸金業者から1400万円を借りた者が、期限の利益を喪失したとして一括払い請求を受けたことから、契約書の約定返済方法とは異なる返済(30年分割)の説明を受けていたとして、不実告知(4条1項1号)による取消を理由として、債務不存在確認、根抵当権抹消請求をした事案。
【判断の内容】
継続的金銭消費貸借媒介契約書の記載や返済状況等から、不実告知があったものと認定し、金銭消費貸借契約の取消を認め、債務不存在確認、根抵当権抹消請求を認めた。
◆ H23.03.04大阪地裁判決
平成20年(ワ)第15684号不当利得金返還請求事件
判例時報2114号87頁
裁判官 小林康彦
【事案の概要】
認知症が進行していた92歳の独り暮らしの女性が、梵鐘の製作等を業とする業者との間で50トンの大梵鐘を製作する請負契約を締結し、代金3億円のうち2億円を支払ったが、当該契約が不実告知、不利益事実の不告知によって締結された等と主張して、返還請求をした事案。契約書作成前に支払われた2億円が、契約書において契約解除の場合には違約金として没収されるとなっていた条項の効力が争われた。
【判断の内容】
次の理由から、不利益事実の不告知による取消を認め、2億円の返還請求を認めた。
①4条2項の趣旨は、消費者が事業者の不適切な勧誘行為に影響されて自らの欲求の実現に適合しない契約を締結した場合には、民法上の詐欺が成立しないときであっても、消費者が当該契約に拘束されることは衡平を欠くことから、消費者に当該契約の効力を否定する手段を与えたもの。
②梵鐘の設置場所が未確定なまま巨大な梵鐘を、寺院でない一個人が注文するという極めて異例な契約内容であることから、契約書作成時点において契約が締結されたものというべき。
③前払い金2億円について、中途解約の場合違約金となることが契約書においてはじめて記載されており、趣旨が変わっているにもかかわらずそのことを告げた事実は認められない。このことは、重要事項にかかる不利益事実の不告知があるものとして、取消事由となるというべき。
◆ H23.12.21東京地裁判決
【事案の概要】
原告が、被告の従業員の勧誘に応じて仕組債および投資信託(本件商品)を購入したところ、勧誘の際、被告従業員による断定的判断の提供および重要な不利益事実の不告知があり、また、適合性原則および説明義務違反があったとして、法4条1項2号および法4条2項による取消しを主張し、不当利得返還等と不法行為による損害賠償等を選択的に請求した。
【判断の内容】
原告が本件商品を購入する際、被告が、確実に利益が得られる旨の断定的判断を提供したとは認められない。また、被告は原告に対し、本件商品の内容及びリスクについて説明を行っており、不利益事実の不告知の事実も認められないとして、取消し事由はないと判断した。不法行為についても認められないとし、原告の請求を棄却した。
◆ H23.12.20京都地裁判決
平成23年(ワ)第1875号未公開株勧誘行為等差止請求事件
消費者庁HP(PDF)、判決写し(PDF、京都消費者契約ネットワークHP)、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 瀧華聡之、奥野寿則、堀田喜公衣
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 J・C・I投資事業有限責任組合
【事案の概要】
適格消費者団体が、投資事業として消費者と契約を行うJ・C・I 投資事業有限責任組合に対し、不当勧誘の差し止めを求めた事案。
【判断の内容】
特段の主張のない答弁書を提出しただけで欠席したため、請求原因事実に争いがないものとした上で、差止ができる範囲について以下のとおり判断した。
① 「未公開株式の購入を勧誘してはならない」との請求については、4条1項1号の不実告知をする場合に限り、当該未公開株式の客観的な価値と比較して、著しく異なる価額を告げて勧誘する行為の差止の限度で認めた。
② 「未公開株式の購入を勧誘するに際し、被告が内閣総理大臣の登録(金融商品取引法第29条)を受けておらず、金融商品取引業を行うことが法律上禁止されている者であることを告げずに勧誘をしてはならない」との請求については、不利益事実の不告知(4条2項)にあたるとして認めた。
③ 「第三者をして、消費者に対して、株式を購入できる者が限定されている旨を告げさせてはならない。被告は、第三者をして、消費者に対して、株式を買い取る旨を告げさせてはならない。」との請求については、あらかじめ購入できる者が限定されていないのに告げること、株式を買い取る具体的予定がないのに買い取る旨を告げる行為の差止の限度で認めた。
◆ H23.12.19大阪地裁判決
判例時報2147号73頁、金融商事判例1385号26頁、証券取引被害判例セレクト41巻80頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
原告は、被告の担当者から仕組債購入に関する勧誘を受け、これを購入した。その後、仕組債の発行体が米国法に基づく会社社更正手続適用を申請した。原告は、被告に対し、本件仕組債の購入契約は錯誤無効である旨、また、被告の担当者の勧誘が法第4条1項2号、同条2項に該当する旨、さらに、被告の担当者の勧誘が適合性原則違反、説明義務違反、断定的判断の提供に該当し、違法性を有し不法行為を構成する旨を主張して、民法715条ないし金融商品販売法5条に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求等をした。
【判断の内容】
被告の担当者が断定的判断を提供したとまで評価することはできないし、勧誘の時点において不実告知があったと認めるには足りない。また、仕組債の発行体の信用不安が高まっていることや、仕組債の発行体の信用性が失われた場合には償還されないことがあることを告げていなかったことは事実であるが、担当者がそれらの事実を故意に告げなかったとは認められないことから、法4条1項2号および同条2項には該当しない。さらに、錯誤無効は認めなかったが、不法行為については説明義務違反があったとし、原告の請求を一部認容した(過失相殺3割)。