「2014年2月」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H24.09.12東京地裁判決
平成23年(ワ)第19923号保険金請求事件
判例タイムズ1387号336頁
裁判官 畠山稔,高瀬保守,瀬戸信吉
【事案の概要】
生命保険契約に基づく保険金請求事件。保険契約者が払込期月までに保険料を支払わず,その後1か月の猶予期間内に保険料の払込がないときは,本件保険契約が履行の催告を要することなく効力を失う旨の条項(無催告失効条項)が10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から,10条により無効とはならないとして,請求を棄却した。
① 民法541条の定める履行の催告は,債務者に債務不履行があったことを気付かせ,契約が解除される前に履行の機会を与える機能を有する。無催告失効条項は,保険料の支払を遅滞した場合に直ちに保険契約が失効するものではなく,民法541条により求められる催告期間よりも長い1か月以内に債務不履行状態が解消されない場合に初めて失効する旨を明確に定めている。
② 保険会社は,契約締結時に,保険料の支払状況を把握するシステムを構築し,保険契約者が保険料を予定どおりに支払わない場合には,原則として未入通知を送付する態勢を整えるとともに,全国的に多数の支社及び営業オフィスを有し,営業職員が保険契約者に対して電話,訪問等の方法で注意喚起を行う態勢を整えており,実際に原告に対して未入通知の送付や営業職員による注意喚起が行われており,上記態勢に沿った運用が確実に行われていた。
③ 以上によれば,無催告失効条項は10条にいう「信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当しない。
◆ H25.07.03大阪地裁判決
平成24年(レ)第1005号不当利得返還請求控訴事件
消費者法ニュース97号348頁
裁判官 黒野功久、浦上薫史、札本智広
第1審 東大阪簡裁平成24年(ハ)第521号
【事案の概要】
消費者が、飼い犬を亡くなるまで施設に預けるという契約をしたが、その約1カ月後に当該契約を解約して費用の返還を求めたところ、契約書に「契約後の返金はできません」との不返還条項があることを根拠に返還を拒んだ事例。不返還条項が9条1号により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から,9条1号により無効となるとして,請求を認めた。
① 本件不返還条項は,本件終身預かり契約解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めに当たる。
② 平均的損害の主張立証責任は消費者側にある。
③ 本件代金の算定は,犬の大きさ,年齢,健康状態が考慮され,余命から預かる期間を想定していたところ,期間満了前に代金を返還する場合,利潤の一部を失ったり,解除の有無にかかわらず支出を避けられない経費の財源を失うことにはなるが,他方,えさ代等の支出を免れるし,新たな取引も十分可能。
④ この他,本件契約の他の定めを考慮すれば,本件代金の一部については平均的損害の額を超えるものと認められ,この範囲で本件不返還条項は無効。
◆ H25.10.17大阪高裁判決
平成24年(ネ)第3565号,平成25年(ネ)第590号契約解除意思表示差止等請求控訴,同附帯控訴事件
消費者法ニュース98条283頁,消費者庁HP(PDF),判決写し(PDF,消費者支援機構関西)
裁判官 河邉義典,大澤晃,山下寛
第1審 大阪地裁平成23年(ワ)第13904号
適格消費者団体 消費者支援機構関西
【事案の概要】
適格消費者団体が、不動産賃貸業者に対し、①破産、後見開始、保佐開始等を理由とする解除権を賃貸人に付与する条項、②契約終了後の明渡しの履行遅滞による損害として家賃2か月分に相当する賠償額を予定する条項、③滞納家賃を督促する手数料を賃借人が1回あたり3,150円支払う条項、④自然損耗を超える汚損の有無にかかわらず賃借物件の補修費用(面積に応じた一定額)を賃借人に負担させる条項などが、9条各号又は10条に該当するとして、同契約書による意思表示の差止め、契約書用紙の廃棄等を求めた事案の控訴審。
第1審では,①のうち賃借人に対する後見開始又は保佐開始の審判や申立てがあったときに直ちに契約を解除できる旨の条項に係る部分についてのみ10条に該当するとして差止め等を認めたが、その余を棄却していた。
【判断の内容】
以下の理由から,①の賃借人が破産等の決定又は申立てを受けた場合に解除を認める部分についても10条により無効であるとして差止請求を認めるという内容に変更したが、その余は差止等を認めなかった。
① 破産等の決定又は申立てを受けたことは,一般的には賃借人の経済的破綻を徴表する事由であるが、賃借人の賃料債務の不履行の有無や程度は個別事案によって異なるものであり、上記事由が発生したからといって直ちに賃貸借契約から発生する義務違反があり信頼関係が破壊されていると評価するのは、相当ではない。
② 賃貸人は、特約において解除事由としている一定の要件を満たせば、催告の上、
本契約を解除できるのであるから、本件解除条項が無効とされた場合に賃貸人が被る不利益も、本件解除条項が有効とされた場合に賃借人が被る不利益に比して、大きいものとはいえない。
③ 後見・保佐について、後見開始や保佐開始の審判がされれば、成年後見人や保佐人が付され、同人らによって財産管理がされ、近隣紛争の解決が期待できるから、成年被後見人、被保佐人の宣告や申立てを受けたことは、賃貸借契約の信頼関係破壊の徴表に当たるとはいえない。
④ ②については、10条前段に該当するが、原審での理由に加えて、賃貸人の損害の填補や賃借人の明渡義務の履行を促すという観点に照らし、あらかじめ賃料以上の一定の額を損害賠償額の予定として定めることは、合理性を有しており、賃料の2倍という額は、高額過ぎるとまではいえない。
⑤ ③については、10条前段に該当するが、原審での理由に加えて、賃貸人は、単に普通郵便で催告するのみでなく、内容証明郵便を送ったり、場合によっては、現地に従業員を赴かせて直接督促したりするなど相応の費用を要することが少なくないこと、実際に要した費用が定められた金額を超える場合でも賃借人は定められた金額を支払えば足りるという点では賃借人に有利な面もあること等から、同条後段には該当しない。
⑥ ④については、10条前段に該当するが、原審での理由等から同条後段には該当しない。