「2014年」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H26.08.07京都地裁判決
平成23年(ワ)第3425号結婚式場解約金条項使用差止等請求事件
ウエストロー・ジャパン,京都消費者契約ネットワークHP(判決あり,PDF),消費者庁HP(PDF)
裁判官 栂村明剛,武田美和子,阿波野右起
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 株式会社Plan・Do・See
【事案の概要】
婚礼及び披露宴に関する企画及び運営等を業とする会社に対し、結婚式場のキャンセル料を定める条項が9条1号により無効となるとして,キャンセル料条項の使用差止め及び同条項が記載された契約書用紙の破棄を求めた事案。
【判断の内容】
以下の理由から,原告の請求を棄却した。
① 本件申込金の不返還条項は9条1号の対象となる。
② 「平均的損害」には,逸失利益が含まれる。
③ 90日前以前に解除されたとしても,逸失利益は生じ,その後の再販売により代替的な利益を確保できたとしてもそれは損益相殺の問題。
④ 本件平均的損害は,以下の計算式により算定するのが相当。
本件平均的損害=本件逸失利益ー損益相殺すべき利益
=(解除時見積額の平均×粗利率)ー(解除時見積額の平均×粗利率×再販率)
=解除時見積額の平均×粗利率×(1ー再販率)
=解除時見積額の平均×粗利率×非販売率
これによると,本件キャンセル料は,損益相殺後の本件逸失利益を下回っている。したがって,平均的損害額を超えない。
◆ H26.04.24大分地裁判決
平成24年(ワ)第499号違約金条項使用差止等請求事件
大分県消費者問題ネットワークHP(判決文あり,PDF),消費者庁HP(PDF)
適格消費者団体 大分県消費者問題ネットワーク
事業者 北九州予備校(学校法人金澤学園)
【事案の概要】
中途退学時の学費返還は原則として行わないとした契約条項が9条1号により無効となる等として,大学受験予備校に対し当該条項の差し止めを求めた事案。
【判断の内容】
以下の理由から,当該条項の使用の差し止めを命じた。
① 当該予備校では,年度途中の入学を予定しており,現に途中で入学する者もいて,その際の入学試験もない。
② 当該予備校では,定員に達していない校舎も,定員に達した校舎も,定員数に縛られることなく新入生を受け入れている。
③ したがって,一人の希望者との間で在学契約を締結したために別の一人の希望者との在学契約締結の機会が失われたといった関係はおよそ認められない。
④ そうすると,いったん在学契約を締結した者が後にこれを解除した場合,これによりいくらかの損害を受けることはあり得るとしても,中と入学者を受け入れること,その他の対策を講じることは十分に可能であり,少なくとも,本件不返還条項が定めるような,当該消費者が納付した解除後の期間(いまだ役務を提供していない機関)に対応する授業料の全額について,一般的客観的に損害を被ることにはならないというべき。
◆ H25.09.18東京高裁判決
平成25年(ネ)第3187号損害賠償請求控訴事件
判例秘書
裁判官 下田文男,橋本英史,脇由紀
第1審 H25.04.19東京地裁判決
【事案の概要】
スイスの銀行に口座を有する日本人が銀行から勧誘を受けて株式を購入させられたことが適合性原則違反,説明義務違反に当たるとして不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を日本の裁判所に提起したところ,スイスの裁判所を専属管轄とする合意があるとして訴えを却下されたことに対する控訴審。この管轄の合意について消費者契約法10条が適用されるかについても争われた。
【判断の内容】
以下の理由から,被控訴人の消費者契約法10条が適用される余地はないとの主張を排斥し,10条該当性を判断した(なお,本件については無効とはならないとした)。
① 本件各申込書には,本件各口座開設契約の準拠法をスイス連邦法とする旨の条項があるが,国際的専属的裁判管轄合意の効力に関する準拠法は,法廷地法である我が国の国際民事訴訟法であると解される。被控訴人が主張するように法例7条を適用し,あるいは類推適用してスイス連邦法が準拠法となると解するのは相当でない。
② 国際的専属的裁判管轄合意の効力は,我が国の国際民事訴訟法の見地から,公序法違反の有無のほかに,契約(意思表示)の効力に関する我が国の民法その他の成文法の規定の趣旨(法意)を参酌して判断される場合がある。
③ 控訴人らは個人であって,事業として又は事業のために契約の当事者となったものではなく,一方,被控訴人は法人であるから,両者の間に成立した本件管轄合意の効力について,消費者契約法10条の規定の趣旨を参酌して判断する余地があるというべきであって(同法1条,2条1項ないし3項参照),同法10条の適用が問題となることはない旨の被控訴人の主張は,採用することができない。
◆ H25.08.26東京地裁判決
平成23年(ワ)第4089号預託金返還等請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 亀村恵子、坂本雅史、吉田徹
【事案の概要】
証券会社から仕組債を購入した顧客が,当該契約について瑕疵があると主張して預託金の返還や損害賠償を請求した事案。不実告知,不利益事実の不告知,断定的判断の提供の有無が争点の1つとなった。
【判断の内容】
不実告知,不利益事実の不告知,断定的判断の提供について,以下の理由からこれを否定した。
① (仕組債の組成に要する費用や被告が仕組債を販売することによって得る利益が4条1項にいう「重要事項」に該当するか否かについて)
本件各仕組債は,日経平均株価の変動に従って損益が確定する金融商品であり,適用利率決定の条件や早期償還の条件,満期償還金額の計算式等を理解すれば本件各仕組債のリスクとリターンの具体的な内容を知ることができ,投資の適否の判断に必要な情報は与えられているといえるのであって,本件各仕組債の組成に要した費用や被告がその販売により得る利益の額を知らなければ,本件各仕組債のリスクとリターンとが見合っているかを判断することができないとはいえない。本件各仕組債が生み出すキャッシュフローの具体的内容は,将来日経平均株価がどのように推移するかという点に左右されるのであって,これは個々の投資家が現在・将来の経済情勢に関する認識・見通し,各々の相場観に基づいて判断すべき事項であり,一般的な投資判断と異なるところはなく,殊更困難な予測・判断を要求されるものではない。
確かに,抽象的には,本件各仕組債の組成に要する費用その他発行体及び販売者側に生じた費用が投資家に転嫁されることによって,投資家が得る利得がその分だけ減少しているものと考えられるが,そこで生じた費用の額を知ったからといって,本件各仕組債のリスクとリターンに関する投資判断に直ちに影響が及ぶことになるともいえない(換言すれば,その費用にかかわらず,将来の日経平均株価に関する見通しと本件各仕組債の発行条件とを照らし合わせることで,本件各仕組債が生み出すキャッシュフローの具体的な内容について認識・予測することができ,本件各仕組債のリスクとリターンに関する一応の投資判断は可能なものといえる。)。
したがって,仕組債の組成に要する費用や金融商品取引業者が仕組債を販売することによって得る利益の存否やその多寡が,一般投資家が当該仕組債を購入するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものということはできず,法4条にいう重要事項に当たるとはいえない。
② (不利益事実の不告知について)被告が本件各仕組債の販売により利益を得ている旨やその組成に費用を要したことを告知しなかったとしても,通常の投資家が,被告が本件各仕組債の販売によって利益を得ておらず,その組成に費用を要しなかったと考えるとはいえない。
③ (断定的判断の提供について)販売担当者の説明によって,原告が将来にわたり日経平均株価が60パーセントまで低下することは確実にないと誤信したものと認めることはできない。
◆ H25.07.03大阪地裁判決
平成24年(レ)第1005号不当利得返還請求控訴事件
消費者法ニュース97号348頁
裁判官 黒野功久、浦上薫史、札本智広
第1審 東大阪簡裁平成24年(ハ)第521号
【事案の概要】
消費者が、飼い犬を亡くなるまで施設に預けるという契約をしたが、その約1カ月後に当該契約を解約して費用の返還を求めたところ、契約書に「契約後の返金はできません」との不返還条項があることを根拠に返還を拒んだ事例。不返還条項が9条1号により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から,9条1号により無効となるとして,請求を認めた。
① 本件不返還条項は,本件終身預かり契約解除に伴う損害賠償額の予定又は違約金の定めに当たる。
② 平均的損害の主張立証責任は消費者側にある。
③ 本件代金の算定は,犬の大きさ,年齢,健康状態が考慮され,余命から預かる期間を想定していたところ,期間満了前に代金を返還する場合,利潤の一部を失ったり,解除の有無にかかわらず支出を避けられない経費の財源を失うことにはなるが,他方,えさ代等の支出を免れるし,新たな取引も十分可能。
④ この他,本件契約の他の定めを考慮すれば,本件代金の一部については平均的損害の額を超えるものと認められ,この範囲で本件不返還条項は無効。