「2013年9月」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H22.06.11東京地裁判決
平成21年(ワ)第41032号敷金返還等請求事件、建物明渡請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 綿引穣
【事案の概要】
建物の賃借人からの敷金返還請求及び違約金条項(賃借人より契約締結後2年未満に解約・解除等がされたときは,賃借人は賃料・共益費の1か月分を支払う旨の条項)に基づき支払った違約金の返還請求。違約金条項が10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
本件違約金条項を無効とし、返還請求を認めた。
① 本件においては,賃借人からの解約申し出後2か月で賃貸借契約が終了する旨の特約が別途存在するから、賃貸借契約が2年以内に解約されることにより,賃貸人に特段の不利益があるとは考えられない。
② 本件賃貸借は居住用マンションの賃貸借であるが,その契約時期は,平成20年2月であるところ,一般的には,4月に居住用マンションの新規需要が生じるのであるから,契約後2年間の契約期間に特段の意味はない。
以上から、消費者の利益を一方的に害するものとして、本件違約金条項は無効というべき。
◆ H22.05.28東京地裁判決
平成21年(レ)第324号損害賠償請求控訴事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 佐久間邦夫、石原直弥、牛尾可南
【事案の概要】
被控訴人が控訴人との間でパチンコの攻略情報の売買契約を締結したが、同契約は、断定的判断の提供によるものであり、この攻略情報を用いれば確実に利益を得ることができると誤認して締結したものであり、消費者契約法4条1項2号に基づいて取り消した、錯誤による無効である、上記のような勧誘行為は詐欺行為であるから取り消したなどと主張して不当利得の返還を請求したところ、原審が請求を認容したことから、控訴人が控訴した事案。契約日から半年以上経過した後に取消の意思表示をしていたことから、消滅時効の点も争われた。
【判断の内容】
以下の理由から、業者の控訴を棄却した。
① 本件契約は,控訴人が被控訴人に対し,パチンコの打ち方の手順等の情報を提供するものであり,これによって,被控訴人にパチンコで経済的利益を得させることを目的とした契約であると認められる。
② 一般的に,パチンコは,各台の釘の配置や角度,遊技者の玉の打ち方や遊技時間,台に組み込まれて電磁的に管理されている回転式の絵柄の組み合わせなどの複合的な要因により,出玉の数が様々に変動する遊技機であり,遊技者がどのくらいの出玉を獲得するかは,前記のような複合的な要因に左右され,偶然性が高いから、控訴人が本件契約において提供すると約した情報は,将来における変動が不確実な事項に関するものにあたる。
③ 控訴人は,自社のホームページにおいて、控訴人の提供する情報を使えば,利益を上げることができ,かつ,その情報自体が信用性の高いものである旨表示していた。
また,攻略法を利用した場合に得られる利益について、クレジットカードの一括払いを利用しても決済日までにはその額に相当する利益を上げることが可能である旨述べるなど、控訴人が提供する攻略情報の手順に従った打ち方をすれば,短期間で,かつ,別の機種の攻略情報も購入可能な程度の利益を得ることができるという趣旨の発言をしていること、効果が上がらない場合には,現地調査に赴き,控訴人の従業員が確認作業を行うという記載のある保証規約書を交付するなどしていることからは、控訴人は,控訴人が提供する攻略情報を使えば,将来の出玉によって利益を得ることが確実であるとの言動を示したものということができ,控訴人による勧誘は,被控訴人に対して断定的判断を提供したものといえる。
④ 被控訴人は,(契約日から約1年後の)平成20年7月9日に司法書士との会話の中でパチンコの攻略情報が存在しないことを知ったのであり,それ以前の段階で,被控訴人が,消費者契約法上の取消事由が存することを認識していたと認めるに足りる的確な証拠はなく,控訴人の主張は採用できない。
◆ H22.03.18さいたま地裁判決
平成21年(レ)第167号敷金返還請求控訴事件
最高裁HP
裁判官 佐藤公美、 髙橋光雄、 川﨑慎介
【事案の概要】
ペット可の建物賃貸借契約の際に差し入れた定額補修費8万円の返還請求。定額補修費を支払うとの条項が10条により無効となるか、前払した賃料及び共益費のうち明渡し日の翌日以降退去月の末日までの分を返還しないとする契約条項(日割精算排除条項)が10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
いずれも10条により無効とはならないとしつつ、一定の範囲で返還請求を認めた。
① 定額補修費は実際にかかった補修費との差額について返還すべきものであり、不返還の合意があるなどの事情がない限りは差額を返還すべき。本件ではそのような合意はない。
② 本件補修費用は,いずれも本件貸室の修復費用であり,その中に通常損耗の原状回復費用を含むものであるところ,建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは,賃借人に予測しない特別の負担を課すことになるから,賃借人に同義務が認められるためには,少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明示されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当(最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決・判例タイムズ1200号127頁)。
③ 本件補修費用のうち、ペット飼育に掛かる汚損・破損の補修費については明確な合意があるから定額補修費から支出すべきものであるが、それ以外の支出は明確な合意がなく、控除すべきでない。
④ 本件定額補修費の合意は、敷金類似の金銭預託契約であり、本件契約には他に権利金や敷金の支払いもないこと、ペット飼育できることとして2000円の賃料増額がなされているが、これはペット飼育できることの利益についての対価でありそれ以上にペット飼育に伴う賃借物件の劣化又は価値の減少を補填する趣旨を含むものではないこと等から、10条に反しない。
⑤ (日割精算排除条項について)本件日割精算排除条項及び退去条項からは、解約の意思表示が貸主に到達してから最大3カ月分の賃料を支払うことになるが、本件契約は期限の定めがあり本来一方的に解約することができないこと、期間の定めのない建物賃貸借の場合解約申し入れから3カ月後に終了することからは、10条には反しない。