「2013年9月」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H25.07.11大阪高裁判決
平成24年(ネ)第3741号解除料条項使用差止請求控訴事件
消費者庁HP(PDF)、金融商事判例1423号9頁、ウエストロー・ジャパン
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 ソフトバンクモバイル株式会社
第1審 H24.11.20京都地裁判決
【事案の概要】
適格消費者団体が,電気通信事業等を営む事業者に対して,2年間の契約期間の定めのある携帯電話通信契約を中途解約する際に解除料として9975円の支払義務があることを定める条項が消費者契約法9条1号・10条に反するとして同条項の使用の差止めを求めたもの。1審が原告の請求を棄却し、原告が控訴していたもの。
【判断の内容】
控訴棄却。
本件解除金条項が法第9条第1号により無効であるかどうかについて、本件解除金条項が、「解除に伴う損害賠償の額の予定」又は「違約金」に該当するとした上で、本件解除料が法第9条第1号にいう平均的な損害を越えるか否か判断するに際しては、被告の設定した契約期間である2年間の中途における解除という時期の区分を前提に、本件契約の解除に伴い、被告に生じる損害の額の平均値を求め、これと本件解除料の比較を行えば足りるとし、法第9条第1号は、債務不履行の際の損害賠償請求権を定める民法第416条を前提とし、その内容を定型化するという意義を有するから、同号の損害は、民法第416条にいう「通常生ずべき損害」であり、逸失利益を含むと解すべきであるとした。本件契約の解除に伴って被告に生じる平均的な損害のうち、主なものは、これによって被告が失う逸失利益であり、その額は、被告と本件契約を締結した契約者の平均収入から変動コストを除いて算出される変動利益(1契約当たり平均の営業上の利益(1か月当たり))に、本件契約の契約期間である2年間から、被告と本件契約を締結した契約者の平均解約期間を除いた解除後の平均残存期間を乗じた47,689円が平均的な損害に当たるとし、これは、本件解除料を超える金額となるため、本件解除条項は、法第9条第1号に反しないと判断した。
本件解除金条項が法第10条により無効であるかどうかについては、本件契約は、民法上の請負や委任に類似する性格を有しており、本件解除料条項は、本件契約が解除された場合には、原則として、当該契約における顧客との関係で被告に具体的に生じる損害の額にかかわらず、一律に、一定の金員(本件解除料)の支払義務を課す点において、民法の一般法理に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものとなる余地があるとして、法第10条前段の要件に該当するとした上で、被告から顧客に対して確認書等により十分な説明が行われており、通常は、顧客もこれを理解した上で、被告の提供するサービスの中から、本件料金プランを選択した上で本件契約を締結しているということができるのであり、本件解除料条項に関して、事業者と消費者との間に、看過できないような情報の質及び量並びに交渉力の格差等があるということはできず、さらに、本件解除料は、本件契約の解除によって被告に生じる平均的な損害の額を下回っている上、本件料金プランは、基本使用料等の面で、他の料金プランより優遇されており、かつ更新月においては、本件解除料を支払うことなく契約を解除することができるとの事情が存在するのであるから、このような本件契約の特質等に鑑みても、本件契約における本件解除料条項が、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるということはできないとして、法第10条後段の要件には該当しないと判断した。
また、更新後の解除料についても当初の解除料と同様に法第9条第1号及び第10条に反しないと判断した。
◆ H25.02.22大阪簡裁判決
平成24年(ハ)第17022号損害賠償請求事件(本訴)、第35076号損害賠償請求事件(反訴)
消費者法ニュース96号362頁
裁判官 鈴本浩一郎
【事案の概要】
幼児の保護者が幼稚園と入園契約を締結し、入園金5万円を支払った後、入園式の直前になって授業料の値上げと入園式の日程変更を幼稚園が通知したことから、入園を取りやめ、既払いの入園金や授業料の返還を求めたところ、入園金はいかなる理由があっても返金しないとの条項の存在を理由に入園金5万円の返還を受けられなかったことから、その返還を求めて提訴した事案。不返還条項が10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から返還請求を認めた。
① 本件入園金の法的性質は、入園金の支払が契約成立の条件となっており、また、他の幼稚園への入園を前提とする解除権が留保されていることをうかがわせる事情が認められないから、入園しうる地位の対価としての性質を認めることは困難。しいていえば、一方的に入園辞退することを回避するための手付金に類する性質を有する。
② 本件不返還合意は、被告側の帰責事由がある場合にも有効とすれば社会通念に鑑みて相当性を欠く場合があるといわざるを得ず、被告側の有責的事情が原因で当該入園希望者が入園を辞退することに合理的な理由がある場合には、本件不返還合意は信義則に反し、10条後段要件を満たすから、そのような場合は変面的に無効となり効力が及ばないというべき。
③ 本件では、授業料の値上げ、入園式の日程変更のいずれも被告側の有責的事情といえ、原告の契約解約申し入れには相応の合理性があり、本件不返還合意の効力は及ばない。
◆ H22.08.31大阪高裁判決
平成21年(ネ)第2785号債務不存在確認等請求控訴事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 紙浦健二、川谷道郎、宮武康
第1審 大阪地裁平成21年(ワ)第113号
【事案の概要】
5年間で償却する約定で600万円の入居金を支払って被控訴人の高齢者用介護サービス付賃貸マンションに母親を入居させていた控訴人が、2年後、賃貸借契約の終了に伴い、入居金の返還を求めた事案。入居金の償却条項が10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から10条により入居金の焼却場公は無効であるとして返還請求を認めた。
① 本件入居金の法的性格は、賃貸借契約から生ずる控訴人の債務の担保、医師及び看護師による24時間対応体制が整った居室への入居の対価及び入居後の医師・看護師らによるサービスの対価としての性格を併有する。
② 本件マンションには被控訴人が宣伝していたような24時間対応体制の実態はなく、被控訴人が対価に相当するサービスを提供していないのに1年毎120万円を取得することは、民法の一般規定による場合と比較して消費者である控訴人の権利を制限するものであるから、本件約定は10条により無効である。
◆ H22.08.30東京地裁判決
平成21年(ワ)第40358号損害賠償請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 湯川克彦
【事案の概要】
被告会社からパチンコの攻略情報を購入した原告が、被告会社が一連の勧誘行為において、断定的判断を提供し、虚偽の情報を提示したなどと主張して、被告会社らに対して、不法行為又は不当利得に基づき、損害の賠償又は不当利得の返還として、原告の被った財産的損害、精神的損害及び弁護士費用の支払を求めた事案。
【判断の内容】
被告会社は実効性の認められないシステムに基づく本件攻略情報を購入するよう勧誘し、本件攻略情報が有効である旨原告を誤信させて原告から金員の交付を受けたもので、本件契約について消費者契約法上の取消事由となるだけでなく詐欺行為として不法行為に該当するとした。
◆ H22.06.29東京地裁判決
平成20年(ワ)第32609号売買代金返還等請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 矢作泰幸
【事案の概要】
原告X1が被告から購入した土地について、鉛が検出されるなど瑕疵が存在するため、瑕疵担保責任を理由として売買契約を解除したなどとして、被告に対し、代金相当額の返還等を求め、同土地に住宅を建築する予定であった原告X2が、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案。瑕疵担保責任の追及は引渡日から3か月以内にしなければならないとする特約が10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から上記特約は10条により無効とした。
① 買主による瑕疵担保責任に基づく解除又は損害賠償の請求の期間について,民法570条,566条3項は,買主が事実を知ったときから1年以内にしなければならないと規定するのに対し,本件特約は,本件土地の引渡日から3か月以内とするというものであって,瑕疵担保責任の行使期間を,買主の認識にかかわらず,その期間も1年以内から3か月に短縮するものであるから,同法の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者である原告X1の権利を制限するものであることは,明らか。
② 本件土地の瑕疵は,環境基準を超える鉛が検出されるとともに皮革等が多数埋設されていたというもので,発見が困難であり、買主は相当の損害を受けるものであるのに、瑕疵担保責任の行使期間を買主の認識の有無にかかわらず短期間に制限をするものであること、原告X1は調査を尽くしていたこと等の事情からは、10条後段要件を満たし、無効というべき。
③ (被告が、貴金属,宝石類の卸売業等を目的とする株式会社であって,不動産の売買を業とするものではないから,消費者契約法の事業者にはあたらないとの主張に対し)2条2項は,事業者とは,法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいうと規定するから,法人は,その業務との関連にかかわらず,事業者に該当するものというべきである。