「2013年6月」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H24.02.01東京地裁判決
平成23年(ワ)第948号保険金請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 篠田賢治
【事案の概要】
原告株式会社の代表取締役であったCを被保険者とする保険契約を被告との間で締結していた原告が、Cの死亡により、死亡保険金の支払を求めたところ、被告が、本件契約は、保険料未払のため本件約款の無催告失効条項により失効した後、原告の申込みにより復活したものであり、復活後1年以内のCの自殺は保険金支払免責事由に当たる旨主張したのに対し、さらに原告が、本件失効条項は、継続的契約の本質及び消費者契約法の精神に鑑み、信義則違反及び公序良俗違反により無効であるなどとして争った事案。
【判断の内容】
以下の理由から、消費者契約法の適用、類推適用を否定した。
① 本件保険契約は平成13年4月1日より前に締結されているから、消費者契約法の適用はない。
② 原告は法人であり、2条1項に規定する「消費者」にあたらないから、消費者契約法の適用はない。
③ 原告と被告との間に情報及び交渉力に格差があることは十分にうかがわれるが、原告の組織の実態等からも類推適用することはできない。
④ 仮に、本件保険契約につき消費者契約法が類推適用されるとしても、10条の類推適用の可否の問題となるが、本件失効条項は,保険契約者の保護の観点、保険契約者のモラル・ハザードを防止する必要の点から、合理性があり、保険契約者に有利な内容も含まれており、これらの事情からすると,原告と被告との間に情報の質及び量並びに交渉力の格差があるとしても、消費者の利益を一方的に害するものとはいえない。
◆ H24.01.31東京地裁判決
平成22年(ワ)第34752号慰謝料等請求事件
ウエストロー・ジャパン、国セン発表情報(2013年11月21日公表)
裁判官 上田哲
【事案の概要】
旅行業者である被告との間で旅行契約を締結して被告主催のツアーに参加した原告らが、クルーズ船において割り当てられた客室が身体障害者仕様の海の見えない客室であったことが被告の債務不履行又は消費者契約法4条4項1号所定の「重要事項」に係る説明義務違反の不法行為を構成すると主張して、被告に対し、損害賠償を求めた事案。
【判断の内容】
以下のように判断し、請求を棄却した。
① 「重要事項」(4条4項1号)とは,当該消費者契約の目的となるものの質,用途その他の内容等であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいうところ,この「消費者の・・・判断に通常影響を及ぼすべきもの」とは,契約締結の時点の社会通念に照らし,当該消費者契約を締結しようとする一般平均的な消費者が当該消費者契約を締結するか否かについて,その判断を左右すると客観的に考えられるような,当該消費者契約についての基本的事項,換言すれば,通常予見される契約の目的に照らし,一般平均的な消費者が当該消費者契約の締結について合理的な意思形成を行う上で通常認識することが必要とされる重要なものをいうと解される。
② 本件の事情からは、「バルコニー付スタンダード」中に本件船室が含まれていることが,一般平均的な消費者が旅行契約の締結について合理的な意思形成を行う上で通常認識することが必要とされる重要なものであるとはいえないから,「重要事項」に当たるとはいえないし,その他,信義則等の一般原則に照らしても,本件契約の締結に際し,被告が原告ら主張のような説明義務を負っていたとは認められない。
◆ H24.01.25東京地裁判決
平成22年(ワ)第17665号、第38763号サイト制作代金等請求事件(本訴)、(反訴)
ウエストロー・ジャパン
裁判官 秋元健一
【事案の概要】
原告が、被告会社との間でインターネットサイト制作等の委託契約を締結したとして、被告会社に対し、代金等の支払を求めるとともに、被告会社の代表取締役である被告Y2に対し、同Y2に金銭を貸し付けた又は同Y2が被告会社の原告に対する金銭債務を引き受けたとして、金員の支払を求めた事案。
【判断の内容】
被告会社に対する請求を一部認める一方で、被告代表取締役に対する請求については、債務引受契約の成立を認めつつ、遅延損害金利率については消費者契約法所定の制限利率の範囲内である約定の年14.6%に制限して認めた(明示はないが9条2号を適用したものと思われる。)。
◆ H24.10.16東京地裁判決
平成23年(ワ)第15640号売掛金請求事件
ウェストロー・ジャパン
裁判官 杉山順一
【事案の概要】
ホストクラブ経営者から顧客への飲食代金請求。原告が飲食等の提供にあたり独身である旨の虚偽の事実を告知し被告との間で性的関係を持ち、これにより被告が来店し顧客となることが原告との交際に有意義であることを誤信させたことが不実告知にあたるとして契約を取り消すなどと争われた。
【判断の内容】
ホストクラブは女性の遊戯場的な飲食店であり,その営業内容からして,ホストと客が真剣に交際することや結婚するに至ることが予定されているものでないことは明らかであるから,本件飲食等提供契約において,ホストである被告が独身か否かはそもそも重要事項に当たると認めることはできないとして、不実告知による取消を否定した。
◆ H23.08.18東京地裁判決
平成22年(ワ)第41347号保険金請求事件
ウエストロー・ジャパン
裁判官 志田博文、杉本宏之、後藤隆大
【事案の概要】
責任開始期から2年以内の自殺は免責される旨及び保険契約が失効の後、復活した場合の責任開始期は、被告が延滞保険料を受け取った日とする旨の特約がある生命保険契約において、保険料猶予期間の末日の経過により保険契約が失効するとする本件失効条項に基づき失効し、復活条項に基づく復活による責任開始日から2年以内に自殺した被保険者の妻である原告が、被告に対し、生命保険金の支払等を求めた事案。本件失権条項が10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から本件失権条項が無効であるとして請求を認めた。
① 本件失権条項は、10条前段要件を満たす。
② 後段要件について、保険契約の継続という利益は消費者にとって極めて重要。他方、民法が履行遅滞による解除権の発生に相当期間を定めた履行の催告を要求する趣旨は、契約が解除されるという不利益を受ける前に債務者に履行の機会を付与する点にあるところ、本件保険契約における履行の催告は消費者にとって極めて重要な利益。そして、保険会社の利益は、通知コストの軽減という付随的な利益にとどまる。
従って、消費者契約である生命保険契約に付された履行の催告及び解除の意思表示を不要とする特約は,通知コストの軽減という付随的な利益のために保険保護の継続という保険契約における本質的な利益を制限するものであり,保険料の支払が口座振替によりなされる旨合意されている場合には,保険契約者が履行遅滞にあることや保険契約が失効したことを確定的に認識しうる措置等保険保護された状態を維持しうるような措置がとられているなどの特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である保険契約者の利益を一方的に害するものとして,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当。
③ 本件の猶予期間の定め、自動振替貸付制度の定め、復活条項は前記特段の事情を肯定する事情としては足りない。催告の実質を有する特則通知書を送付する社内体制となっていることだけでは、催告を不要とする根拠となるとはいえない。