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「2012年」アーカイブ|消費者契約法判例集

◆ H23.08.10東京地裁判決

判決年月日: 2011年8月10日

金融法務事情1950号115頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)

【事案の概要】
 生命保険会社Y1との間で保険(本件保険契約)を契約した原告は、媒介代理店Y2の従業員が、本件保険契約の勧誘の際、解約時の返戻金につき不実の説明を行い、また、解約による返戻金額が運用実績により振込保険料を下回ることになるリスクがあるという重要事項を告げず、さらに本件保険契約には契約初期費用はかからないなどと説明したことから、原告がその旨誤信し本件保険契
約を締結するに至ったとして、被告Y1に対し錯誤無効、法4条1項および2項に基づく保険契約の取消しによる不当利得返還請求をし、また、適合性原則違反、説明義務違反があったとして、被告Y1および被告Y2に対し、不法行為あるいは債務不履行に基づく損害賠償を請求した。

【判断の内容】
 本件保険契約締結時の被告Y2の説明については、解約時の返戻金の額に関する不実の説明がなされたこと、解約返戻金額が一時払い保険料を下回るリスクがあるという不利益事実の不告知があったことのいずれも認められないとして、原告の法4条1項1号または2号による取消しの主張を退けた。
 また、被告Y2の従業員は、本件保険契約につきパンフレットを読み上げて原告に説明しており、中途解約が最も大きいリスクであるという本件保険契約の特長に関し特に重点的に説明をしたと認められることから説明義務違反はないとし、適合性原則違反についても、本件保険契約の特徴、原告の経歴等を鑑みれば、被告Y2が本件保険契約を原告に紹介したことが不適当な勧誘であるとまでは認めることはできないとした。

◆ H23.08.02西宮簡裁判決

判決年月日: 2011年8月 2日

消費者法ニュース90号186頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)

【事案の概要】
 原告は、被告と建物(本件居室)の賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。本件賃貸借契約には、預託された敷金50万円から無条件に40万円を控除するという敷引特約(本件敷引特約)があったことから、原告は、被告に対して、本件敷引特約は法10条に反すると主張し、敷金の返還を請求した。

【判断の内容】
 本件敷引特約は、敷引率が80%と高率であり、かつ、月額賃料の約4.3倍になることからすると、敷金授受目的を超えるもので高額に過ぎると評価せざるを得ず、高額な敷引金を許容する特段の事情は認めがたい。ただし、本件については、①被告は敷引金40万円以外には、更新料及び礼金等の金銭を原告から徴収していないこと、②賃借期間が6年間であったこと、③原告は、本件賃貸借契約に先立ち、本件敷引特約について説明を受け、その趣旨を十分に理解した上で本件賃貸借契約を締結していること等の事情が認められるところ、これらの事情は、敷引額を考慮する合理的な理由と認めるのが相当である。以上の事情からすると、本件敷引特約については、月額の3カ月分が相当な敷引金の範囲と解するのが相当であり、それを超える額については、敷金の性質からして、一般消費者である原告の利益を一方的に害する特約として、法10条に反して無効である。

◆ H23.07.28東京地裁判決

判決年月日: 2011年7月28日

平成22年(ワ)第47503号不当利得返還請求事件
判例タイムズ1374号163頁、現代消費者法19号83頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 木納敏和

【事案の概要】
 原告は、被告に対し、往復航空券及び3日分の宿泊先の手配を依頼し、手配旅行契約(本件契約)を締結した。本件契約の約款においては、「旅行者が手配旅行契約を解除した場合には、取消料、違約金その他の運送・宿泊機関等に関する費用を負担するほか、被告に対し所定の取消手数料金及び被告が得るはずであった取消料金を支払わなければならない」と定められていた。被告の担当者は原告に対し、本件契約を締結する際に、原告が予約手配を申し込んだ航空券について、発券後の取消し手続料金が代金の100%となることを説明し、原告に対し、この説明内容が記載されたパンフレットを交付した。原告は、旅行代金を支払い後、本件契約を解除する旨の意思表示をした。原告は、本件約款が公序良俗に反して無効であり、仮にそうでないとしても法9条1号により「平均的な損害」を超える部分について無効であると主張し、本件契約に基づき支払った金員からすでに返還を受けた金員を控除した分の返還を請求した。

【判断の内容】
 本件約款は、標準旅行業約款に基づくものであることから、公序良俗に反しない。
 本件約款は、①既に旅行者が受けた旅行サービスの対価、②取消料、違約金その他の運送・宿泊機関等に関する費用の負担、③旅行業者に対し、所定の取消手続料金等を定めているものであって、その内容に照らせば、「平均的な損害」の内容を一般的に定めたものと解される。そして、原告の自己都合による解除で生じた航空会社やホテルに対して支払うべき取消料・違約料に相当する額を、原告のために手配を行ったに過ぎない被告が負担しなければならない理由はないのであるから、これらの取消料・違約料相当額は、法9条1号の「平均的な損害」の範囲内のものとして、被告には返還義務が生じないと解するのが相当である、とした。

◆ H23.07.22名古屋高裁判決

判決年月日: 2011年7月22日

平成23年(ネ)第418号不当利得返還請求控訴事件
消費者法ニュース90号188頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 中村直文、朝日貴浩、濱優子
第1審 名古屋地裁平成22年(ワ)第3100号

【事案の概要】
 専門学校である被告は、入試方法として、AO入試、推薦入試、及び一般・社会人入試という3つの区分を設けていた。原告は、このうちの一般・社会人入試区分の専願入試及び学内併願制度を利用し、学内併願制度により、第2希望の学科に合格した。その後、原告は、平成22年3月15日に被告に対し在学契約解除の意思表示をし、納入した学費の返還を請求した。

【判断の内容】
 被告の入学年度が始まるのが4月1日であること、定員について法令による一定の規制があること、併願受験も想定されることに照らして、大学の場合と別異に解するべきではない。
 被告においては、早期に一般入試と異なるAO入試および推薦入試があること、一般・社会人入試の「専願」と「併願」はほとんど差異はなく、一次募集、二次募集および欠員募集合わせて計10回が予定されていること、被告においては、学内併願制度を設けており、第1希望の学科が不合格であった場合に自動的に第2希望の学科の選考が実施されることになっており、原告もこれにより合格したものであること、そして、原告が受験した学部の入学者は、欠員募集による入学者を加えても定員に満たなかったことが認められる。
 以上から、原告が受験した区分の専願入試は、他の受験者よりも早期に有利な条件で入学できる地位を実質的に確保しているとも、また、学生が在学契約を締結した時点で、被告に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予想されるとも認めがたい実態にあるというというべきであるから、その在学契約の解除の意思表示が3月31日までになされた場合は、被告に生ずべき法9条1号所定の平均的損害は存しないものと認められるので、本件不返還特約は無効である。そして、原告が3月15日に解除の意思表示をしたことは明らかであるので、被告は原告に対し本件学費を返還する義務を負うとした。

◆ H23.07.15最高裁判決

判決年月日: 2011年7月15日

平成22年(オ)第863号、平成22年(受)第1066号更新料返還等請求本訴、更新料請求反訴、保証債務履行請求事件
最高裁HP、最高裁判所民事判例集65巻5号2269頁、裁判所時報1535号265頁、判例タイムズ1361号89頁、金融商事判例1384号35頁、金融商事判例1372号7頁、判例時報2135号38頁、判例時報2157号148頁、金融法務事情1948号83頁、ジュリスト1441号106頁、民商法雑誌146巻1号92頁、現代消費者法13号103頁、国センHP(消費者問題の判例集)
裁判官 古田佑紀、竹内行夫、須藤正彦、千葉勝美
第1審 H21.09.25京都地裁判決(1)
控訴審 H22.02.24大阪高裁判決

【事案の概要】
 建物賃貸借契約について,更新料条項及び定額補修分担金条項はいずれも10条に反し無効であるとして,賃貸借契約中に3回にわたり支払った更新料合計22万8000円及び契約締結時に支払った定額補修分担金12万円の返還を求めた事案。

【判断の内容】
 以下の理由から、原判決を破棄し、更新料の支払いを命じた。
① 消費者契約法10条は,憲法29条1項に違反しない。
② 更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当。
③ 10条の、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定には、明文の規定のみならず,一般的な法理等
も含まれると解するのが相当。更新料条項は、任意規定の適用による場合に比し、消費差hである賃借人の義務を加重するものにあたる。
④ 問題となる条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは,消費者契約法の趣旨,目的
(同法1条参照)に照らし,当該条項の性質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべき。
⑤ 更新料の前記性質からは、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできないし、一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや,従前,裁判上の和解手続等においても,更新料条項は公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると,更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
⑥ 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。
⑦ 本件には特段の事情はない。
⑧ 定額補修分担金の返還に関する部分は上告理由書提出がないため却下された。

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