「2012年12月」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H23.11.17東京地裁判決
平成23年(レ)第26号不当利得返還請求控訴事件
判例タイムズ1380号235頁、判例時報2150号49頁、現代消費者法19号73頁、消費者法ニュース91号186頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)、国センHP(消費者問題の判例集)
裁判官 齊木敏文、日景聡、百瀬玲
【事案の概要】
被控訴人が経営する旅館での宿泊を予約していた控訴人(権利能力なき社団)は、宿泊予定者の一部が新型インフルエンザに罹患したため宿泊を取消し、被控訴人に取消料(本件取消料)を支払ったが、本件取消料の合意は不成立であったこと、仮に成立したとしても取消料発生要件を満たしていないこと、本件取消料条項は法9条1項が規定する「平均的な損害」を超える取消料を定めるものであるから無効であること等を主張して、被控訴人に対し、不当利得に基づく利得金の返還等を請求した。原判決は、控訴人の請求を棄却したためこれを不服として控訴した。
【判断の内容】
以下のように判示し、返還請求を一部認容した。
① 本件取消料については合意が成立しており、本件取消料発生要件の「お客様の都合」とは、旅行者側の事情によって取り消した場合を広く含むものであるから、本件において取消料発生の要件は満たされている。
② 権利能力なき社団が法2条の「消費者」に該当するかに関して、権利能力なき社団のように、一定の構成員により構成される組織であっても、消費者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っていると評価できないものについては、「消費者」に該当すると解するのが相当であり、控訴人は「消費者」に該当する。
③ 「平均的な損害」(9条1号)とは、同一事業者が締結する同種契約事案において類型的に考察した場合に算定される平均的な損害額であり、具体的には、当該解除の事由、時期に従い、当該事業者に生ずべき損害の内容、損害回避の可能性等に照らして判断すべきものと解するのが相当。
④ 本件の「平均的な損害」を宿泊料およびグラウンド使用料等にかかる79万7845円と認定し、これを超える取消料の額を定める部分は法9条1号により無効となるとした。
◆ H23.11.08福岡地裁判決
金融法務事情1951号137頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
被告銀行との間で、変額個人年金、仕組債、投資信託、外貨預金に関する契約(本件契約)を締結した原告は、被告銀行の行員が原告の理解できない金融商品への投資を勧誘したことにより被害を被ったとして、本件契約の錯誤無効を主張し、また、本件仕組債の勧誘に関しては重要事項についての不利益事実の不告知および不実告知があったとして法4条に基づき契約を取消したと主張して不当利得の返還等を請求した。
【判断の内容】
錯誤無効の主張については、被告銀行の行員が原告に渡した書類等において、満期や早期償還の可能性があることが記載されていることから、原告が錯誤に陥っているとはいえないとした。法4条に基づく取消しについては、本件各仕組債に関する満期、利率、元本割れの可能性等、リスクに関する具体的な説明が原告に対してなされていること、また、販売資料および目論見書に満期が明確に記されており原告が満期を誤認することはないと考えられ、行員の説明が虚偽であったことを直ちに認めることはできないと判断し、本件仕組債について原告に対する不利益事実の不告知(法4条2項)、不実告知(同条1項1号)に該当する事実はないとして、法4条に基づく取消しを認めなかった。
◆ H23.10.25最高裁判決
平成21年(受)第1096号債務不存在確認等請求及び当事者参加事件
最高裁HP、金融商事判例1378号12頁、裁判所時報1542号1頁、判例タイムズ1360号88頁、判例時報2133号9頁、金融商事判例1384号29頁、金融法務事情1945号90頁、消費者法ニュース91号138頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
第2審 H21.02.19名古屋高裁判決
【事案の概要】
宝飾品の販売業者との間で売買契約(本件売買契約)を締結し、あっせん業者との間で購入代金にかかる立替払契約(本件立替払契約)を締結した被上告人は、本件あっせん業者から事業の譲渡を受けた上告人に対し、本件売買契約は公序良俗に反し無効であるから本件立替払契約も無効であること、または法5条1項が準用する同法4条1項1号もしくは同条3項2号により本件立替払契約の申込みの意思表示を取消したことを主張して、不当利得の返還等を請求をした。原審は、売買契約が無効になれば立替払契約は目的を失って失効するとして被上告人の請求を認めたため、上告人がこれを不服として上告した。
【判断の内容】
個品割賦購入あっせんにおいて、購入者と販売業者の売買契約が無効となった場合でも、購入者とあっせん業者との立替払契約については、販売業者とあっせん業者との関係、販売業者の立替払契約締結手続きへの関与の内容および程度、販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無および程度に照らし、売買契約と一体的に立替払契約についても効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情がない限り、立替払契約が無効となる余地はないとし、本件ではそのような特段の事情はないとして、原審の被告敗訴部分を破棄した。法による取消権については、7条1項により時効消滅しているとした。
◆ H22.11.12神戸地裁尼崎支部判決
判例タイムズ1352号186頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
マンションの一室(本件居室)につき被告を賃貸人、原告を賃借人とする賃貸借契約を締結した際、原告は被告に150万円の敷金を預託した(本件預託金)。本件預託金に関しては「契約時より起算した経過年数が10年未満である場合は、預託された敷金から40%を差し引いた残額を返還する」との特約(本件敷引特約)があった。契約締結から約8年7カ月後、原告は賃貸借契約の解除を申し出、本件居室を明け渡したことから、被告は本件敷引特約に従い、本件預託金150万円から40%差し引いた90万円から日割賃料等を差し引いた額を原告に返還した。これに対し原告は、本件預託金は賃貸借契約から生じる債務を担保するという敷金の性質を有しているが、本件敷引特約は、民法661条1項、587条適用の場合に比し消費者である賃借人の権利を制限し、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するため、法10条に反し無効であるとし、差し引かれた60万円の返還等を請求した。
【判断の内容】
敷金とは、一般に、賃貸借契約終了後、目的物の明渡義務履行までに生ずる損害金その他賃貸借契約関係により賃貸人が賃借人に対し取得する一切の債権を担保するものと解される。本件敷引特約は契約後の事情によって定まるものであり、礼金や権利金等の当初から返還されないこととなっている一時金とは異なり、賃借人に生じた債務以外の理由で敷金の一部が差し引かれる定めであるから、任意規定の適用による場合に比して賃借人の義務を加重する条項である。しかしながら、敷引特約は一般に行われているものであり、原告も本件敷引特約を理解したうえで賃貸借契約を締結した等の事情からすれば、本件敷引特約が消費者の利益を信義則に反する程度に両当事者間の衡平を損なうものとはいえないとして、原告の請求を棄却した。
◆ H22.10.07三島簡裁判決
消費者法ニュース88号225頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
被告Y1は、連鎖販売取引において波動エネルギーを記憶させた水(本件商品)を販売していたところ、本件商品が近眼、花粉症、アトピー等に効果があるとの説明を受けた原告は、本件商品を割安に購入する目的で連鎖販売取引の仕組みに参加し本件商品を購入した(本件売買契約)。しかし、本件商品に当該効能はなかったとして、原告が被告Y1に対し、被告Y1の勧誘行為は不実の告知に該当するとして、法4条1項1号他による本件売買契約の取消および不当利得の返還を請求した。また、原告は被告Y2と本件商品購入につきクレジット契約を締結したところ、被告Y2は法5条の「事業者」に該当するとして、クレジット契約についても同法5条・4条1項1号による取消を請求した。
【判断の内容】
連鎖販売取引における売買契約の一方当事者が法2条1項の「消費者」に該当するかにつき、連鎖販売取引であっても自らの消費のためだけに商品の購入契約を締結する場合は同条項の「消費者」に該当するとして、原告の「消費者」該当性を認めた。その上で、被告Y1に対する請求については、本件売買契約の勧誘に当たり、被告Y1が本件商品を飲むことで病気が治る等の説明をしたことは法4条1項1号の不実の告知に該当するとして、同条項による取消を認めた。なお、被告Y2に対する請求については、被告Y1が同法5条にいう「媒介の委託を受けた第三者」には当たらないとして、クレジット契約の取消を認めなかった。