「2012年12月」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H24.12.07大阪高裁判決
平成24年(ネ)第1476号解約違約金条項使用差止・不当利得返還請求控訴事件
消費者庁HP(PDF)、判決写し(PDF、京都消費者契約ネットワークHP)、金融商事判例1409号40頁、判例時報2176号33頁、現代消費者法21号73頁
裁判官 渡邉安一、池田光宏、善元貞彦
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ
【第1審】H24.03.28京都地裁判決
【事案の概要】
適格消費者団体が携帯電話会社に対し、解約金に関する条項が9条1号又は10条に該当して無効であると主張して、12条3項に基づき当該条項の内容を含む契約締結の意思表示の差止めを求め、同条項に基づく違約金を被告に対して支払った者が不当利得返還請求を行った事案。
【判断の内容】
当該解約金の額にいわゆる「平均的な損害」の額を超える部分がないと認められるとして、これを棄却した第1審判決は、原判示および本判示の事実関係の下においては、当該「平均的な損害」の額は第1審判決の認定の額を下回るが、これを是認することができる。
◆ H24.12.21名古屋地裁判決
平成23年(ワ)第5915号不当条項差止等請求事件
最高裁HP、消費者庁HP(PDF)、判決写し(PDF、あいち消費者被害防止ネットワークHP)、判例時報2177号92頁、消費者法ニュース97号241頁
裁判官 片田信宏、鈴木陽一郎、古賀千尋
適格消費者団体 あいち消費者被害防止ネットワーク
事業者 学校法人モード学園
【事案の概要】
適格消費者団体が,専門学校に対し,AO入試,推薦入試,専願での一般・社会人入試及び編入学によって入学を許可された場合,入学辞退の申出の時期(在学契約が解除される時期)にかかわらず,一律に学費を返還しないとの不返還条項を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示等の差止めを求めた事件。
【判断の内容】
以下のように判断し、不返還条項を含む契約の申込又はその承諾の意思表示等の差し止めを認め、条項が記載された書面、電子データの破棄、従業員への周知徹底を命じた。
① 在学契約の解除に伴い被告に生ずべき平均的な損害は,一人の学生と被告との在学契約が解除されることによって,被告に一般的,客観的に生ずると認められる損害をいうものと解するのが相当である。
② 当該在学契約が解除された場合には,その時期が当該大学において当該解除を前提として他の入学試験等によって代わりの入学者を通常容易に確保することができる時期を経過していないなどの特段の事情がない限り,当該大学には当該解除に伴い初年度に納付すべき授業料等及び諸会費等に相当する平均的な損害が生ずるものというべきである。
③ 本件では特段の事情があり、9条1号に反する。
④ 本件不返還条項は9条1号により一部無効であるが,同法12条3項は,このような不当な契約条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示の差止めを認めていると解される。
◆ H22.10.07三島簡裁判決
消費者法ニュース88号225頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
被告Y1は、連鎖販売取引において波動エネルギーを記憶させた水(本件商品)を販売していたところ、本件商品が近眼、花粉症、アトピー等に効果があるとの説明を受けた原告は、本件商品を割安に購入する目的で連鎖販売取引の仕組みに参加し本件商品を購入した(本件売買契約)。しかし、本件商品に当該効能はなかったとして、原告が被告Y1に対し、被告Y1の勧誘行為は不実の告知に該当するとして、法4条1項1号他による本件売買契約の取消および不当利得の返還を請求した。また、原告は被告Y2と本件商品購入につきクレジット契約を締結したところ、被告Y2は法5条の「事業者」に該当するとして、クレジット契約についても同法5条・4条1項1号による取消を請求した。
【判断の内容】
連鎖販売取引における売買契約の一方当事者が法2条1項の「消費者」に該当するかにつき、連鎖販売取引であっても自らの消費のためだけに商品の購入契約を締結する場合は同条項の「消費者」に該当するとして、原告の「消費者」該当性を認めた。その上で、被告Y1に対する請求については、本件売買契約の勧誘に当たり、被告Y1が本件商品を飲むことで病気が治る等の説明をしたことは法4条1項1号の不実の告知に該当するとして、同条項による取消を認めた。なお、被告Y2に対する請求については、被告Y1が同法5条にいう「媒介の委託を受けた第三者」には当たらないとして、クレジット契約の取消を認めなかった。
◆ H23.05.19名古屋地裁判決
平成22年(フ)第3876号損害賠償請求事件
消費者法ニュース89号138頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 渡部美佳
【事案の概要】
原告は、被告との間で、パチンコ・パチスロの攻略情報の提供契約(本件契約)を締結し、約6年半の間に合計約550万円を支払った。契約締結の際、被告の従業員は、攻略情報に従えば必ず利益が上がるとして勧誘をした。その後、原告が、被告から提供された情報を元に遊技をしても利益が上がらないというと、被告の従業員は、より高額な契約を締結すれば確実に利益を得られる旨述べてその契約を勧め、その後も、利益が得られないと訴える原告に対し、従業員を交替させながら新たな契約の締結を言葉巧みに勧め、その代金を支払わせた(本件各契約)。原告は、被告の従業員らの勧誘行為は断定的判断の提供であるとして法4条1項2号により契約の取消および不当利得の返還等を請求した。
【判断の内容】
原告が被告から攻略法の情報提供を受けていたパチンコ・パチスロ機種の攻略法は存在しないこと、パチンコ・パチスロの業界団体で構成されているセキュリティー対策委員会、全日本遊技事業協同組合などからパチンコ・パチスロの攻略法があるとの詐欺的行為について警鐘を鳴らされていること、本件契約の利用規約においても確実性・正確性について保証しない旨の記載があることから、パチンコ・パチスロにおいて確実に利益を得られる攻略法は存在しないことは明らかであり、利益を得られるかどうかは、不確実な事項である。被告の従業員は、原告に対し確実に利益が得られるとの断定的判断を提供し、原告は、同断定的判断の内容が確実であると誤認して本件各契約を申し込んでいるとして、法4条1項2号に基づく本件各契約の取消を認めた。
◆ H23.08.10東京地裁判決
金融法務事情1950号115頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
生命保険会社Y1との間で保険(本件保険契約)を契約した原告は、媒介代理店Y2の従業員が、本件保険契約の勧誘の際、解約時の返戻金につき不実の説明を行い、また、解約による返戻金額が運用実績により振込保険料を下回ることになるリスクがあるという重要事項を告げず、さらに本件保険契約には契約初期費用はかからないなどと説明したことから、原告がその旨誤信し本件保険契
約を締結するに至ったとして、被告Y1に対し錯誤無効、法4条1項および2項に基づく保険契約の取消しによる不当利得返還請求をし、また、適合性原則違反、説明義務違反があったとして、被告Y1および被告Y2に対し、不法行為あるいは債務不履行に基づく損害賠償を請求した。
【判断の内容】
本件保険契約締結時の被告Y2の説明については、解約時の返戻金の額に関する不実の説明がなされたこと、解約返戻金額が一時払い保険料を下回るリスクがあるという不利益事実の不告知があったことのいずれも認められないとして、原告の法4条1項1号または2号による取消しの主張を退けた。
また、被告Y2の従業員は、本件保険契約につきパンフレットを読み上げて原告に説明しており、中途解約が最も大きいリスクであるという本件保険契約の特長に関し特に重点的に説明をしたと認められることから説明義務違反はないとし、適合性原則違反についても、本件保険契約の特徴、原告の経歴等を鑑みれば、被告Y2が本件保険契約を原告に紹介したことが不適当な勧誘であるとまでは認めることはできないとした。
◆ H23.10.25最高裁判決
平成21年(受)第1096号債務不存在確認等請求及び当事者参加事件
最高裁HP、金融商事判例1378号12頁、裁判所時報1542号1頁、判例タイムズ1360号88頁、判例時報2133号9頁、金融商事判例1384号29頁、金融法務事情1945号90頁、消費者法ニュース91号138頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
第2審 H21.02.19名古屋高裁判決
【事案の概要】
宝飾品の販売業者との間で売買契約(本件売買契約)を締結し、あっせん業者との間で購入代金にかかる立替払契約(本件立替払契約)を締結した被上告人は、本件あっせん業者から事業の譲渡を受けた上告人に対し、本件売買契約は公序良俗に反し無効であるから本件立替払契約も無効であること、または法5条1項が準用する同法4条1項1号もしくは同条3項2号により本件立替払契約の申込みの意思表示を取消したことを主張して、不当利得の返還等を請求をした。原審は、売買契約が無効になれば立替払契約は目的を失って失効するとして被上告人の請求を認めたため、上告人がこれを不服として上告した。
【判断の内容】
個品割賦購入あっせんにおいて、購入者と販売業者の売買契約が無効となった場合でも、購入者とあっせん業者との立替払契約については、販売業者とあっせん業者との関係、販売業者の立替払契約締結手続きへの関与の内容および程度、販売業者の公序良俗に反する行為についてのあっせん業者の認識の有無および程度に照らし、売買契約と一体的に立替払契約についても効力を否定することを信義則上相当とする特段の事情がない限り、立替払契約が無効となる余地はないとし、本件ではそのような特段の事情はないとして、原審の被告敗訴部分を破棄した。法による取消権については、7条1項により時効消滅しているとした。
◆ H23.11.08福岡地裁判決
金融法務事情1951号137頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
被告銀行との間で、変額個人年金、仕組債、投資信託、外貨預金に関する契約(本件契約)を締結した原告は、被告銀行の行員が原告の理解できない金融商品への投資を勧誘したことにより被害を被ったとして、本件契約の錯誤無効を主張し、また、本件仕組債の勧誘に関しては重要事項についての不利益事実の不告知および不実告知があったとして法4条に基づき契約を取消したと主張して不当利得の返還等を請求した。
【判断の内容】
錯誤無効の主張については、被告銀行の行員が原告に渡した書類等において、満期や早期償還の可能性があることが記載されていることから、原告が錯誤に陥っているとはいえないとした。法4条に基づく取消しについては、本件各仕組債に関する満期、利率、元本割れの可能性等、リスクに関する具体的な説明が原告に対してなされていること、また、販売資料および目論見書に満期が明確に記されており原告が満期を誤認することはないと考えられ、行員の説明が虚偽であったことを直ちに認めることはできないと判断し、本件仕組債について原告に対する不利益事実の不告知(法4条2項)、不実告知(同条1項1号)に該当する事実はないとして、法4条に基づく取消しを認めなかった。
◆ H23.12.12東京地裁判決
【事案の概要】
脱退被告と金銭消費貸借契約(本件契約)を締結した原告が、本件契約にかかる事務手数料条項が法10条により無効であること、本件契約締結時に事務手数料条項についてほとんど説明を行わなかったことは契約の重要事項について消費者の不利益となる事実の不告知に当たるため法4条2項により取消権を有すること、契約時、脱退被告の担当者6名から契約締結を迫られ、一時退出して再検討する機会を与えられないまま締結に至ったものであるため法4条3項2号により取消権を有すること等を主張して、貸付金の債権譲渡を受けた引受参加人に対し債務不存在の確認を求めた。
【判断の内容】
事務手数料については、民法その他法律の任意規定の適用による場合に比べて消費者の義務を加重するというに足りる事実の主張はないとして、10条の該当性を否定した。また、契約締結時の事務手数料に関する説明については、契約証書にも明記され原告がこれを融資実行より前に受領していること、融資実行時に原告が事務手数料控除について疑問を持った形跡がないこと等を認定し、本件契約締結時に不利益事実の不告知があったとは認められないとして、法4条2項の該当性を否定した。さらに、契約締結時、原告が退去の意思を示したにもかかわらず、脱退被告担当者が退去させなかった事実は認められないとして、法4条3項2号の該当性も否定し、原告の請求を棄却した。
◆ H23.12.19大阪地裁判決
判例時報2147号73頁、金融商事判例1385号26頁、証券取引被害判例セレクト41巻80頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
原告は、被告の担当者から仕組債購入に関する勧誘を受け、これを購入した。その後、仕組債の発行体が米国法に基づく会社社更正手続適用を申請した。原告は、被告に対し、本件仕組債の購入契約は錯誤無効である旨、また、被告の担当者の勧誘が法第4条1項2号、同条2項に該当する旨、さらに、被告の担当者の勧誘が適合性原則違反、説明義務違反、断定的判断の提供に該当し、違法性を有し不法行為を構成する旨を主張して、民法715条ないし金融商品販売法5条に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求等をした。
【判断の内容】
被告の担当者が断定的判断を提供したとまで評価することはできないし、勧誘の時点において不実告知があったと認めるには足りない。また、仕組債の発行体の信用不安が高まっていることや、仕組債の発行体の信用性が失われた場合には償還されないことがあることを告げていなかったことは事実であるが、担当者がそれらの事実を故意に告げなかったとは認められないことから、法4条1項2号および同条2項には該当しない。さらに、錯誤無効は認めなかったが、不法行為については説明義務違反があったとし、原告の請求を一部認容した(過失相殺3割)。
◆ H23.12.21東京地裁判決
【事案の概要】
原告が、被告の従業員の勧誘に応じて仕組債および投資信託(本件商品)を購入したところ、勧誘の際、被告従業員による断定的判断の提供および重要な不利益事実の不告知があり、また、適合性原則および説明義務違反があったとして、法4条1項2号および法4条2項による取消しを主張し、不当利得返還等と不法行為による損害賠償等を選択的に請求した。
【判断の内容】
原告が本件商品を購入する際、被告が、確実に利益が得られる旨の断定的判断を提供したとは認められない。また、被告は原告に対し、本件商品の内容及びリスクについて説明を行っており、不利益事実の不告知の事実も認められないとして、取消し事由はないと判断した。不法行為についても認められないとし、原告の請求を棄却した。
◆ H24.02.07東京地裁判決
【事案の概要】
被告が業務執行組合員として財産を管理運用し配分するというファンドへの投資(本件投資)を行った原告が、本件投資勧誘の際に被告が必ず儲かるとの断定的判断を提供してその旨誤信させ契約させたものであるから、民法96条1項ないし法4条に基づいて契約を取消し、被告会社に支払った金銭の返還等を請求した。
【判断の内容】
本件投資は、被告が確実に多大な利益が得られる旨の断定的判断を提供し、あるいは確実に多大な利益が得られる投資商品であるかのごとく装って、原告に対し執拗な勧誘を繰り返し、誤信させた原告に被告との間で契約を締結させたと認められることから、法4条に基づく取消しの意思表示は有効であり、被告は原告から受領した金銭の返還義務を負うとした。
◆ H24.02.15東京地裁判決
【事案の概要】
注文者である被告と請負人である原告との間で締結した、建物リフォーム工事の請負契約に基づき、完成建物を引渡した原告が、被告に対し、請負工事代金等の支払いを求めたところ、被告は、自身が要望していた耐震性等住居の安全に関する重要な事項が契約内容に入っていなかったことを、原告は被告に明示的に説明すべき義務があったのにこれをせず、被告の要望通りの工事がすべ
て見積書に記載されていると誤信させて契約をさせたものであるとして、法4条1項1号に基づく取消しを主張した。
【判断の内容】
法4条1項1号は「重要事項について事実と異なることを告げる」ことが要件となるが、被告の主張は、耐震診断等に関し説明すべき重要事項を説明しなかったという趣旨にとどまるから、同条項に該当しない。なお、4条2項該当性を検討するも、被告の主張からは「重要事項(略)について当該消費者の利益となる旨」を告げたことを認めることはできないとした。
◆ H24.02.23東京地裁判決
【事案の概要】
原告が被告から提供を受けたパチンコ攻略法(本件契約)について、断定的判断を提供されたものであるから法4条1項2号に基づき契約を取消すとして、原告が被告に対し、支払った金銭を不当利得として返還すること等を請求した。
【判断の内容】
パチンコに勝てるか否かは不確実な事項であること、被告は原告に対し、本件契約締結の勧誘の際、本件契約の目的となるパチンコ攻略方法の内容について、パチンコに勝てるようになる旨の断定的判断を提供したこと、これにより原告がパチンコに勝てるようになると誤信したことが認められる。このことから、本件契約は法4条1項2号に基づき取消されており、被告は原告から受領した金銭の返還義務を負うとした。
◆ H24.05.10東京地裁判決
【事案の概要】
原告は、通信機器の開発製造等を行っているという被告の従業員から、被告の株式を購入すれば被告が上場後に倍額で買い取り可能であるなどと執拗な勧誘を受けて株式を購入し、その後、被告の株式を高値で買い取るという業者からの勧誘を受けて、さらに購入を続けた(本件売買契約)。しかし、被告には事業の実態が存在しないにもかかわらず、被告が勧誘時に不実の告知をしたことにより、被告がその事業所において通信機器の開発製造等の事業を行っていると誤信したとして、本件売買契約を法4条1項1号により取り消し、不当利得として既に支払った売買代金の返還を請求した。
【判断の内容】
被告は、原告を知らないし、被告が原告に対して被告の株式を売却したこともなく金員も受領していないなどと主張した。しかし、原告が被告の株式の売買代金を振り込んだ被告名義の預金口座は、被告の預金口座であると被告も認めており、売買代金の一部の送金先が被告の預金口座であったこと等からすれば、被告が会社として本件売買契約に関与したことは明らかである。被告に事業の実態がほとんどなく、その株式に実質的な価値がなかったことも明らかであり、原告が、被告従業員を名乗る者から被告の事業の実態等について不実の告知を受けてこれを誤信し、本件売買契約を締結したと認められる。よって、被告は、原告が支払った売買代金を不当利得として原告に返還する義務を負うとした。
◆ H22.11.12神戸地裁尼崎支部判決
判例タイムズ1352号186頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
マンションの一室(本件居室)につき被告を賃貸人、原告を賃借人とする賃貸借契約を締結した際、原告は被告に150万円の敷金を預託した(本件預託金)。本件預託金に関しては「契約時より起算した経過年数が10年未満である場合は、預託された敷金から40%を差し引いた残額を返還する」との特約(本件敷引特約)があった。契約締結から約8年7カ月後、原告は賃貸借契約の解除を申し出、本件居室を明け渡したことから、被告は本件敷引特約に従い、本件預託金150万円から40%差し引いた90万円から日割賃料等を差し引いた額を原告に返還した。これに対し原告は、本件預託金は賃貸借契約から生じる債務を担保するという敷金の性質を有しているが、本件敷引特約は、民法661条1項、587条適用の場合に比し消費者である賃借人の権利を制限し、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するため、法10条に反し無効であるとし、差し引かれた60万円の返還等を請求した。
【判断の内容】
敷金とは、一般に、賃貸借契約終了後、目的物の明渡義務履行までに生ずる損害金その他賃貸借契約関係により賃貸人が賃借人に対し取得する一切の債権を担保するものと解される。本件敷引特約は契約後の事情によって定まるものであり、礼金や権利金等の当初から返還されないこととなっている一時金とは異なり、賃借人に生じた債務以外の理由で敷金の一部が差し引かれる定めであるから、任意規定の適用による場合に比して賃借人の義務を加重する条項である。しかしながら、敷引特約は一般に行われているものであり、原告も本件敷引特約を理解したうえで賃貸借契約を締結した等の事情からすれば、本件敷引特約が消費者の利益を信義則に反する程度に両当事者間の衡平を損なうものとはいえないとして、原告の請求を棄却した。
◆ H23.07.22名古屋高裁判決
平成23年(ネ)第418号不当利得返還請求控訴事件
消費者法ニュース90号188頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 中村直文、朝日貴浩、濱優子
第1審 名古屋地裁平成22年(ワ)第3100号
【事案の概要】
専門学校である被告は、入試方法として、AO入試、推薦入試、及び一般・社会人入試という3つの区分を設けていた。原告は、このうちの一般・社会人入試区分の専願入試及び学内併願制度を利用し、学内併願制度により、第2希望の学科に合格した。その後、原告は、平成22年3月15日に被告に対し在学契約解除の意思表示をし、納入した学費の返還を請求した。
【判断の内容】
被告の入学年度が始まるのが4月1日であること、定員について法令による一定の規制があること、併願受験も想定されることに照らして、大学の場合と別異に解するべきではない。
被告においては、早期に一般入試と異なるAO入試および推薦入試があること、一般・社会人入試の「専願」と「併願」はほとんど差異はなく、一次募集、二次募集および欠員募集合わせて計10回が予定されていること、被告においては、学内併願制度を設けており、第1希望の学科が不合格であった場合に自動的に第2希望の学科の選考が実施されることになっており、原告もこれにより合格したものであること、そして、原告が受験した学部の入学者は、欠員募集による入学者を加えても定員に満たなかったことが認められる。
以上から、原告が受験した区分の専願入試は、他の受験者よりも早期に有利な条件で入学できる地位を実質的に確保しているとも、また、学生が在学契約を締結した時点で、被告に入学することが客観的にも高い蓋然性をもって予想されるとも認めがたい実態にあるというというべきであるから、その在学契約の解除の意思表示が3月31日までになされた場合は、被告に生ずべき法9条1号所定の平均的損害は存しないものと認められるので、本件不返還特約は無効である。そして、原告が3月15日に解除の意思表示をしたことは明らかであるので、被告は原告に対し本件学費を返還する義務を負うとした。
◆ H23.07.28東京地裁判決
平成22年(ワ)第47503号不当利得返還請求事件
判例タイムズ1374号163頁、現代消費者法19号83頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 木納敏和
【事案の概要】
原告は、被告に対し、往復航空券及び3日分の宿泊先の手配を依頼し、手配旅行契約(本件契約)を締結した。本件契約の約款においては、「旅行者が手配旅行契約を解除した場合には、取消料、違約金その他の運送・宿泊機関等に関する費用を負担するほか、被告に対し所定の取消手数料金及び被告が得るはずであった取消料金を支払わなければならない」と定められていた。被告の担当者は原告に対し、本件契約を締結する際に、原告が予約手配を申し込んだ航空券について、発券後の取消し手続料金が代金の100%となることを説明し、原告に対し、この説明内容が記載されたパンフレットを交付した。原告は、旅行代金を支払い後、本件契約を解除する旨の意思表示をした。原告は、本件約款が公序良俗に反して無効であり、仮にそうでないとしても法9条1号により「平均的な損害」を超える部分について無効であると主張し、本件契約に基づき支払った金員からすでに返還を受けた金員を控除した分の返還を請求した。
【判断の内容】
本件約款は、標準旅行業約款に基づくものであることから、公序良俗に反しない。
本件約款は、①既に旅行者が受けた旅行サービスの対価、②取消料、違約金その他の運送・宿泊機関等に関する費用の負担、③旅行業者に対し、所定の取消手続料金等を定めているものであって、その内容に照らせば、「平均的な損害」の内容を一般的に定めたものと解される。そして、原告の自己都合による解除で生じた航空会社やホテルに対して支払うべき取消料・違約料に相当する額を、原告のために手配を行ったに過ぎない被告が負担しなければならない理由はないのであるから、これらの取消料・違約料相当額は、法9条1号の「平均的な損害」の範囲内のものとして、被告には返還義務が生じないと解するのが相当である、とした。
◆ H23.08.02西宮簡裁判決
消費者法ニュース90号186頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
【事案の概要】
原告は、被告と建物(本件居室)の賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結した。本件賃貸借契約には、預託された敷金50万円から無条件に40万円を控除するという敷引特約(本件敷引特約)があったことから、原告は、被告に対して、本件敷引特約は法10条に反すると主張し、敷金の返還を請求した。
【判断の内容】
本件敷引特約は、敷引率が80%と高率であり、かつ、月額賃料の約4.3倍になることからすると、敷金授受目的を超えるもので高額に過ぎると評価せざるを得ず、高額な敷引金を許容する特段の事情は認めがたい。ただし、本件については、①被告は敷引金40万円以外には、更新料及び礼金等の金銭を原告から徴収していないこと、②賃借期間が6年間であったこと、③原告は、本件賃貸借契約に先立ち、本件敷引特約について説明を受け、その趣旨を十分に理解した上で本件賃貸借契約を締結していること等の事情が認められるところ、これらの事情は、敷引額を考慮する合理的な理由と認めるのが相当である。以上の事情からすると、本件敷引特約については、月額の3カ月分が相当な敷引金の範囲と解するのが相当であり、それを超える額については、敷金の性質からして、一般消費者である原告の利益を一方的に害する特約として、法10条に反して無効である。
◆ H23.11.17東京地裁判決
平成23年(レ)第26号不当利得返還請求控訴事件
判例タイムズ1380号235頁、判例時報2150号49頁、現代消費者法19号73頁、消費者法ニュース91号186頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)、国センHP(消費者問題の判例集)
裁判官 齊木敏文、日景聡、百瀬玲
【事案の概要】
被控訴人が経営する旅館での宿泊を予約していた控訴人(権利能力なき社団)は、宿泊予定者の一部が新型インフルエンザに罹患したため宿泊を取消し、被控訴人に取消料(本件取消料)を支払ったが、本件取消料の合意は不成立であったこと、仮に成立したとしても取消料発生要件を満たしていないこと、本件取消料条項は法9条1項が規定する「平均的な損害」を超える取消料を定めるものであるから無効であること等を主張して、被控訴人に対し、不当利得に基づく利得金の返還等を請求した。原判決は、控訴人の請求を棄却したためこれを不服として控訴した。
【判断の内容】
以下のように判示し、返還請求を一部認容した。
① 本件取消料については合意が成立しており、本件取消料発生要件の「お客様の都合」とは、旅行者側の事情によって取り消した場合を広く含むものであるから、本件において取消料発生の要件は満たされている。
② 権利能力なき社団が法2条の「消費者」に該当するかに関して、権利能力なき社団のように、一定の構成員により構成される組織であっても、消費者との関係で情報の質及び量並びに交渉力において優位に立っていると評価できないものについては、「消費者」に該当すると解するのが相当であり、控訴人は「消費者」に該当する。
③ 「平均的な損害」(9条1号)とは、同一事業者が締結する同種契約事案において類型的に考察した場合に算定される平均的な損害額であり、具体的には、当該解除の事由、時期に従い、当該事業者に生ずべき損害の内容、損害回避の可能性等に照らして判断すべきものと解するのが相当。
④ 本件の「平均的な損害」を宿泊料およびグラウンド使用料等にかかる79万7845円と認定し、これを超える取消料の額を定める部分は法9条1号により無効となるとした。
◆ H23.12.26東京高裁判決
平成23年(ツ)第82号保証債務請求上告事件
判例時報2142号31頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)
裁判官 南敏文、野村高弘、棚橋哲夫
【事案の概要】
金銭消費貸借契約に関する保証契約を締結した上告人と被上告人は、その債務の額を利息制限法の制限利率内で確認するとともに、その弁済方法および条件付一部債務免除等を定める和解契約(本件和解契約)を締結したが、上告人が弁済を怠ったとして、被上告人は残元金の支払いを求めたところ,上告人は遅延損害金の利率の上限を争った。原審は、本件和解契約には消費者契約法が適用され、本件和解契約は、本件貸付金契約及び本件保証契約とは別に創設的に締結された契約であり、それ自体として「金銭を目的とする消費貸借契約」(利息制限法1条)に該当しないから、法11条2項の適用はなく、法9条2号の適用は排除されないとし、期限の利益を喪失した日以降の年利14.6%を超える違約金又は損害賠償の予定の定めは無効であるとした。これに対して被告は、期限の利益喪失以前の年21.9%の遅延損害金の定めを不問にしているとして上告した。
【判断の内容】
本件和解契約について消費貸借上の債務と取扱いを異にして利息制限法上の制限利率の適用を排除すべき実質的な理由はないというべきであるから、法11条2項により、和解契約における遅延損害金の利率には、賠償額の予定の制限を定めた利息制限法4条1項の規定の適用があり、法9条2号は適用されないとし、本件和解契約の遅延損害金の上限は年21.9%となると解すべきと判断したが、原審を上告人に不利益に変更できないとして上告を棄却した。
◆ H24.01.12京都地裁判決
最高裁HP、消費者法ニュース91号252頁、国セン発表情報(2012年11月1日公表)、判例時報2165号106頁、2187号161頁
裁判官 佐藤明、栁本つとむ、板東純
【事案の概要】
被告との間で、携帯電話端末を利用する電気通信役務提供契約(3Gサービス契約)を締結した原告は、携帯電話端末とパソコンを接続し、携帯電話端末をモデムとして用いることによりパソコンでインターネット通信をすることができるサービスを利用し、通信料として被告から約20万円を請求された。そこで、原告は被告に対し、主位的に、通信料金に関する契約条項のうち、一般消費者が本件サービスを利用するに際し通常予測する額である1万円を超える部分は法10条もしくは公序良俗に反するため無効であるとして不当利得の返還を、選択的に、被告は原告に対し契約に関する説明義務があったにもかかわらずこれを怠った等として債務不履行による損害賠償を請求した。
【判断の内容】
パケット料金に関する条項は被告の提供する役務の対価に関する条項であるが、当事者間で明確な合意がなされた場合は、役務提供の単価の当否は基本的には市場による評価および調整に委ねるべき事柄であり、双務契約における対価または対価の決定方法を定める明文規定・一般法理は存在しないとして、法10条前段に該当しないとし、公序良俗違反にも当たらないとした。しかし、いったん利用を開始し通信料金が高額となった後の段階においては、原告のインターネット接続サービスの利用により高額なパケット通信料金が発生しており、それが原告の誤解や不注意に基づくものであることが被告においても容易に認識しうる場合は、被告には本件契約上の付随義務として原告に注意喚起する義務があり、本件では5万円を超える部分の料金について被告の義務違反があったとして、原告の請求を一部認めた。
◆ H24.05.30高松地裁判決
平成23年(ワ)第465号解約金返還請求事件
国セン発表情報(2012年11月1日公表)
控訴審 H24.11.27高松高裁判決
【事案の概要】
原告が、電気通信事業等を営む被告に対し、被告の提供する携帯電話の割引サービス(本件契約)につき、販売時における表示がわかりにくく、4条2項、9条、10条および民法90条に違反しており無効であるとして解約金の返還を請求した。
【判断の内容】
被告の販売時における表示等によれば、消費者は本件契約が2年間ごとの契約であって契約期間中に解約した場合には契約満了月の翌月を除いて解約金が発生すると理解することが十分可能であり、直ちに消費者を誤信させるものではない。また、解約金の規定についても、パンフレットに明記されていること、不利益となる事実を故意に告げなかったとは認められないこと、原告が通常の料金プランの場合と比較して既に解約金を超える利益を得ていること等の事情からすると、本件契約の規定は消費者の利益を一方的に害するものとはいえず、消費者契約法各条項その他の法律に違反するとは認められないとした。
◆ H23.07.15最高裁判決
平成22年(オ)第863号、平成22年(受)第1066号更新料返還等請求本訴、更新料請求反訴、保証債務履行請求事件
最高裁HP、最高裁判所民事判例集65巻5号2269頁、裁判所時報1535号265頁、判例タイムズ1361号89頁、金融商事判例1384号35頁、金融商事判例1372号7頁、判例時報2135号38頁、判例時報2157号148頁、金融法務事情1948号83頁、ジュリスト1441号106頁、民商法雑誌146巻1号92頁、現代消費者法13号103頁、国センHP(消費者問題の判例集)
裁判官 古田佑紀、竹内行夫、須藤正彦、千葉勝美
第1審 H21.09.25京都地裁判決(1)
控訴審 H22.02.24大阪高裁判決
【事案の概要】
建物賃貸借契約について,更新料条項及び定額補修分担金条項はいずれも10条に反し無効であるとして,賃貸借契約中に3回にわたり支払った更新料合計22万8000円及び契約締結時に支払った定額補修分担金12万円の返還を求めた事案。
【判断の内容】
以下の理由から、原判決を破棄し、更新料の支払いを命じた。
① 消費者契約法10条は,憲法29条1項に違反しない。
② 更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると,更新料は,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当。
③ 10条の、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定には、明文の規定のみならず,一般的な法理等
も含まれると解するのが相当。更新料条項は、任意規定の適用による場合に比し、消費差hである賃借人の義務を加重するものにあたる。
④ 問題となる条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは,消費者契約法の趣旨,目的
(同法1条参照)に照らし,当該条項の性質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべき。
⑤ 更新料の前記性質からは、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできないし、一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや,従前,裁判上の和解手続等においても,更新料条項は公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると,更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人との間に,更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
⑥ 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項は,更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらない。
⑦ 本件には特段の事情はない。
⑧ 定額補修分担金の返還に関する部分は上告理由書提出がないため却下された。
◆ H23.07.12最高裁判決
平成22年(受)第676号保証金返還請求事件
最高裁HP、最高裁判所裁判集民事237号215頁、裁判所時報1535号257頁、判例タイムズ1356号81頁、金融商事判例1378号28頁、判例時報2128号33頁、判例時報2145号154頁、金融法務事情1948号90頁、現代消費者法13号110頁
裁判官 田原睦夫(補足意見)、那須弘平、岡部喜代子(反対意見)、大谷剛彦、寺田逸郎(補足意見)
第1審 H21.07.30京都地裁判決
控訴審 H21.12.15大阪高裁判決
【事案の概要】
マンション居室の敷金返還請求。敷引条項の有効性が争われた。
【判断の内容】
原判決を破棄し、本件敷引条項は10条違反にならないとした。
① 敷引特約について、賃貸人は,通常,賃料のほか種々の名目で授受される金員を含め,これらを総合的に考慮して契約条件を定め,また,賃借人も,賃料のほかに賃借人が支払うべき一時金の額や,その全部ないし一部が建物の明渡し後も返還されない旨の契約条件が契約書に明記されていれば,賃貸借契約の締結に当たって,当該契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上,複数の賃貸物件の契約条件を比較検討して,自らにとってより有利な物件を選択することができる。賃貸人が契約条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め,賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば,それは賃貸人,賃借人双方の経済的合理性を有する行為と評価すべきものであるから,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別,そうでない限り,これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない(最高裁平成21年(受)第1679号同23年3月24日第一小法廷判決・民集65巻2号登載予定参照)。
② 本件では、敷引き条項について明確に読み取れる条項が置かれていたのであり、賃借人は本件契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上で本件契約の締結に及んだものというべき。
③ 本件契約における賃料は,契約当初は月額17万5000円,更新後は17万円であって,本件敷引金の額はその3.5倍程度にとどまっており,高額に過ぎるとはいい難く,本件敷引金の額が,近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して,大幅に高額であることもうかがわれない。
(補足意見および反対意見がある)
【岡部喜代子反対意見】
① 敷引金は個々の契約ごとに様々な性質を有するものであるのに,消費者たる賃借人がその性質を認識することができないまま賃貸借契約を締結していることが問題なのであり,敷引金の総額を明確に認識していることで足りるものではない。
② 敷引金は,損耗の修繕費(通常損耗料ないし自然損耗料),空室損料,賃料の補充ないし前払,礼金等の性質を有するといわれており,その性質は個々の契約ごとに異なり得るものである。そうすると,賃借物件を賃借しようとする者は,当該敷引金がいかなる性質を有するものであるのかについて,その具体的内容が明示されてはじめて,その内容に応じた検討をする機会が与えられ,賃貸人と交渉することが可能となるというべきである。例えば,損耗の修繕費として敷引金が設定されているのであれば,かかる費用は本来賃料の中に含まれるべきものであるから(最高裁平成16年(受)第1573号同17年12月16日第二小法廷判決・裁判集民事218号1239頁参照),賃借人は,当該敷引金が上記の性質を有するものであることが明示されてはじめて,当該敷引金の額に対応して月々の賃料がその分相場より低額なものとなっているのか否か検討し交渉することが可能となる。また,敷引金が礼金ないし権利金の性質を有するというのであれば,その旨が明示されてはじめて,賃借人は,それが礼金ないし権利金として相当か否かを検討し交渉することができる。事業者たる賃貸人は,自ら敷引金の額を決定し,賃借人にこれを提示しているのであるから,その具体的内容を示すことは可能であり,容易でもある。それに対して消費者たる賃借人は,賃貸人から明示されない限りは,その具体的内容を知ることもできないのであるから,契約書に敷引金の総額が明記されていたとしても,消費者である賃借人に敷引特約に応じるか否かを決定するために十分な情報が与えられているとはいえない。
③ 消費者契約においては,消費者と事業者との間に情報の質及び量並びに交渉力の格差が存在することが前提となっており(消費者契約法1条参照),消費者契約関係にある,あるいは消費者契約関係に入ろうとする事業者が,消費者に対して金銭的負担を求めるときに,その対価ないし対応する利益の具体的内容を示すことは,消費者の契約締結の自由を実質的に保障するために不可欠である。敷引特約についても,敷引金の具体的内容を明示することは,契約締結の自由を実質的に保障するために,情報量等において優位に立つ事業者たる賃貸人の信義則上の義務であると考える(なお,消費者契約法3条1項は,契約条項を明確なものとする事業者の義務を努力義務にとどめているが,敷引特約のように,事業者が消費者に対し金銭的負担を求める場合に,かかる負担の対価等の具体的内容を明示する義務を事業者に負わせることは,同項に反するものではない。)。このように解することは,最高裁平成9年(オ)第1446号同10年9月3日第一小法廷判決・民集52巻6号1467頁が,災害により居住用の賃借家屋が滅失して賃貸借契約が終了した場合において,敷引特約を適用して敷引金の返還を不要とするには,礼金として合意された場合のように当事者間に明確な合意が存することを要求していること,前掲最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決が,通常損耗についての原状回復義務を賃借人に負わせるには,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であるとしていることから明らかなように,当審の判例の趣旨にも沿うものである。
④ 10条前段要件は満たす。
⑤ 後段該当性についてみると,原審認定によれば,本件敷引金の額は本件契約書に明示されていたものの,これがいかなる性質を有するものであるのかについて,その具体的内容は本件契約書に何ら明示されていないのであり,また,上告人と被上告人との間では,本件契約を締結するに当たって,本件建物の付加価値を取得する対価の趣旨で礼金を授受する旨の合意がなされたとも,改装費用の一部を被上告人に負担させる趣旨で本件敷引金の合意がなされたとも認められないというのであって,かかる認定は記録に徴して十分首肯できるところである。したがって,賃貸人たる上告人は,本件敷引金の性質についてその具体的内容を明示する信義則上の義務に反しているというべきである。加えて,本件敷引金の額は,月額賃料の約3.5倍に達するのであって,これを一時に支払う被上告人の負担は決して軽いものではないのであるから,本件特約は高額な本件敷引金の支払義務を被上告人に負わせるものであって,被上告人の利益を一方的に害するものである。
以上のとおりであるから,本件特約は消費者契約法10条により無効と解すべきである。
⑥ 上告人は,建物賃貸借関係の分野では自己責任の範囲が拡大されてきている,本件特約を無効とすることにより種々の弊害が生ずるなどと述べるが,賃借人に自己責任を求めるには,賃借人が十分な情報を与えられていることが前提となるのであって,私が以上述べたところは,賃借人の自己責任と矛盾するものではなく,かつ,敷引特約を一律に無効と解するものでもないから,上告人の上記非難は当たらない。
◆ H24.06.26横浜地裁判決
平成24年(レ)第126号不当利得返還請求控訴事件
消費者法ニュース93号75頁、NBL988号1頁、国セン発表情報(2013年11月21日公表)
裁判官 森義之、竹内浩史、橋本政和
第1審 横須賀簡裁平成23年(ハ)第650号
【事案の概要】
過払い金返還請求。借主本人と貸金業者間で、真実は過払い状態なのにその事実を業者が告知せず、残債務があることを前提とする和解契約を締結していたため、和解契約が不実告知にあたるかどうかが問題となった。
【判断の内容】
以下の理由から、和解契約の取消を認め、不当利得返還請求を認めた。
① 貸金業者従業員が「今後の利息をなしにして支払う方法があります」「毎月最低いくらならはらえますか」「毎月最低1万円お願いします」などと貸金債務の存在を前提とする発言をしたこと、和解契約締結時は平成18年最高裁判決が言い渡されてから3年以上が経過しており、貸金契約に期限の利益喪失条項が存在していることからは、貸金業法43条の適用が認められないことが明らかであること等から、和解契約は貸金業者従業員の詐欺によって締結されたものというべき。
② 上記従業員の発言は、重要事項について不実告知をしたものであり、和解契約は4条1項1号により取り消すことができる。