「2011年」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H23.11.24京都地裁決定
平成23年(ヲ)第33号間接強制申立事件
決定写し(PDF、京都消費者契約ネットワークHP)
裁判官 大島雅弘
適格消費者団体 京都消費者契約ネットワーク
事業者 株式会社長栄
第1審 H21.09.30京都地裁判決
控訴審 H22.03.26大阪高裁判決
【事案の概要、判断の内容】
適格消費者団体が,不動産賃貸業及び不動産管理業を目的とする事業者である被告に対し,定額補修分担金条項が10条に反して無効であるとして,定額補修分担金条項を含む意思表示をすることの差止を認めた第1審判決に基づき、当該条項を含む意思表示をしたときは1回につき50万円の割合による金員を支払うとの内容の間接強制が認められた。
◆ H22.09.28東京地裁判決
平成21年(ワ)第23889号入居金返還請求事件
判例時報2104号57頁
裁判官 綿引穣、佐藤重憲、金洪周
【事案の概要】
介護付有料老人ホームの入居契約をしたところ、入居者(母)が1年10カ月後に死亡した。入居時に、入会金として105万円、施設協力金として105万円、入居一時金として1155万円を支払っており、入居一時金は20%を契約締結時に、残り80%は5年間で償却するとされていた。入居金、入居一時金が10条違反である等として、返還を受けた金額との差額の返還請求をした事案。
【判断の内容】
請求棄却。
① 本件入居金の額、使途及び償却基準等は、東京都の指針に従っており、都知事から事業者指定を受けている。入居金を徴収することや、契約締結時に20%を償却することは都の指針もこれを前提とする規定を置いている。
② 入居金の使途、額の算定の仕方、償却期間の設定状況、短期間で死亡した場合の定めがあり、その説明を受け署名していることなどからは、入居一時金の償却は民法、商法その他の規定が適用される場合に比して消費者の利益を害するものではなく、10条にはあたらない。
◆ H23.03.18大阪簡裁判決
平成22年(ハ)第27941号不当利得返還請求事件
消費者法ニュース88号276頁
裁判官 篠田隆夫
【事案の概要】
建物賃貸借契約で、礼金が10条違反であるとして不当利得返還請求をした事案。礼金12万円、期間1年の契約で1カ月と8日のみ使用し退去した。
【判断の内容】
以下の理由から、礼金12万円のうち、3万円を控除した9万円の返還を命じた。
① 礼金は、実質的には賃借人に建物を使用収益させる対価(広義の賃料)であるが、その他にもその程度は気迫ではあるものの賃借権設定の対価や契約締結の謝礼という性質をも有している。一定の合理性を有する金銭給付であり、礼金特約を締結すること自体が「民法1条2項に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であるとはいえない。
② 礼金は実質的に前払い賃料であるから、予定した期間が経過する前に退去した場合は、建物未使用期間に対応する前払い賃料を返還するべきことは当然。礼金は返還しないという合意は、契約基幹系構え退去の場合に前払い分賃料相当額が返還されないとする部分について消費者の利益を一方的に害するものとして10条により一部無効というべきである。
◆ H20.05.19大阪高裁判決
国セン報道発表資料(2011年11月11日公表)
第1審 H19.10.30大阪地裁判決
【事案の概要】
本件団地の建替計画の共同事業予定者である不動産会社の被控訴人(原告)が、団地管理組合の一括建替え決議を踏まえて、建替え賛成者から区分所有権を取得した上で、区分所有者として任意に売り渡さないものに対して、区分所有法所定の売渡請求権を行使したとして、控訴人(被告)ら(居住者)に対して、同請求権行使によって売買契約が成立したと主張して、所有権に基づいて、所有権移転登記手続等を請求した。被告らは、手続違反等による一括建替え決議の無効、消費者契約法8条ないしは10条による無効等を主張したところ、原審は被控訴人の請求を全部認容したため、控訴人らが控訴した。
【判断の内容】
(本件一括建替え決議の消費者契約法違反性について)控訴人らは、従前資産売買契約中の条項の消費者契約法違反をもって本件一括建替え決議の無効を主張するものであるが、従前資産売買契約は、本件一括建替え決議に基づく建替え計画実施の一部をなすものではあっても、本件一括建替え決議自体の内容をなすものではなく、現に控訴人らの主張によっても、従前資産売買契約者が締結されたのは平成17年10月だというのである。したがって、本件一括建替え決議において法定外決議事項として決議された「事業方式に関する事項」とは異なり、従前資産売買契約の法令違反が本件一括建替え決議の違反や無効を帰結する理由はないというべきである。控訴人らは、等価交換方式の場合には従前資産売買契約の内容が本件一括建替え決議の隠れた内容を構成するなどと主張するが、その時点で等価交換方式に基づく売買契約の内容を定めておくべき義務があるとは到底考えられず、控訴人らの主張は採用できない。
更に消費者契約法に関する主張のうち同法8条1項1号については、不可分条項に基づく解除に基づく損害は事業者の債務不履行により生じた損害とはいえないから主張自体失当である。
違約金等条項が消費者契約法10条の「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に該当するとの主張も、従前資産売買契約が団地の一括建替え決議の実行の一環として締結されており、一部の者の不履行を容認することが困難であることを考慮すれば、違約金等条項に定める内容が消費者契約法10条の定める民法1条2項の基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものとは認めがたい。
(なお、被控訴人の各請求を全部認容した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないとして、控訴を棄却した)
◆ H19.11.22大阪地裁堺支部決定
【事案の概要】
貸金業者である申立人(被告)との間で金銭消費貸借を繰り返していた相手方(原告)が申立人に対して、過払金が発生しているとして、不当利得変換請求権に基づいて過払金等の返還を求めた事案につき、申立人が金銭消費貸借契約上の専属管轄条項に基づいて、移送の申し立てをした。
【判断の内容】
「訴訟行為については、姫路簡易裁判所を以って専属的合意管轄裁判所とします」との本件条項があることが認められるから、本件に関する訴訟行為については、姫路簡易裁判所が専属的合意管轄であるというべきである。相手方は、本件条項は消費者契約法10条により無効である旨主張するが、本件条項を貸金返還請求訴訟や保証債務履行請求訴訟だけでなく、本件のような過払金返還請求訴訟に適用しても、社会的弱者である消費者の権利を制約し、不当な不利益を与えたりするものとはいえないから、相手方の消費者契約法10条違反の主張は採用することができない。(申立人と相手方との間には姫路簡易裁判所を専属的管轄とする合意が成立しているというべきであるが、民事訴訟法17条の趣旨に照らし、本件移送申立てを却下した)
◆ H19.11.30大阪地裁堺支部判決
【事案の概要】
原告は、被告に対して、放送受信契約に基づいて、衛星放送の受信設備を設置したことを要件とし、視聴の意思がない者にも一律に衛星カラー契約の締結を義務づけることは、契約自由の原則に反する、信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害する(消費者契約法10条)と主張して、カラー契約から衛星カラー契約に契約変更する債務が存在しないことの確認を求めた。
【判断の内容】
放送法32条及びこれに基づく放送受信規約は、被告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に対し、放送を視聴する意思の有無にかかわらず、その受信設備の種類に応じた契約を締結し、その契約の種別ごとに定められた受信料を負担することを義務づけており、これは、契約による法律関係の形成についての個人の自由を制限するものであるとともに、法律の任意規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は義務を加重する消費者契約の条項(消費者契約法10条)を定めたものと解する余地がある。
しかし、衛星放送をカラー受信することのできる受信設備を設置した者に対し、衛星放送を視聴する意思の有無にかかわらず、カラー契約から衛星カラー契約への契約変更を義務づけることは、契約自由の原則の例外として許容されるというべきであり、また、信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの(消費者契約法10条)ではない。よって放送法 32 条及び放送受信規約は有効であり、原告に契約変更の義務があるとして、原告の請求を棄却した。
◆ H20.12.24東京高裁判決
国セン報道発表資料(2011年11月11日公表)
原審 H20.07.29東京地裁判決
【事案の概要】
オペラを鑑賞した控訴人が、上演において、実際にオーケストラの指揮を執ったのがパンフレット等で宣伝されていた指揮者ではなく、格下の指揮者に変更されたことにつき、公演主催者及び公演協賛者らの被控訴人に対して、鑑賞契約上の債務不履行、指揮者という重要事項に関し事実と異なる告知がされたとして、消費者契約法4条1項の取消事由があり、更に不法行為にも当たるとして、損害賠償請求又は不当利得返還請求を求めた。
【判断の内容】
チラシやパンフレットにやむを得ない事情により指揮者の交代があり得る旨も併せて表示されていたのであるから、本件契約の締 結にあたり、本件公演の主催者たる被控訴人らが重要事項について事実と異なることを告げたとはいえないことは明らかである。したがって、消費者契約法4条1項により取り消すことはできないし、 被控訴人らに不当利得及び不法行為が成立する余地はないというべきであるとして、控訴人の請求を失当とする原判決は相当である として、控訴を棄却した。
◆ H19.10.30大阪地裁判決
国セン報道発表資料(2011年11月11日公表)
控訴審 H20.05.19大阪高裁判決
【事案の概要】
本件団地の建替計画の共同事業予定者である不動産会社(原告)が、団地管理組合の一括建替え決議を踏まえて、建替え賛成者から区分所有権を取得した上で、区分所有者として任意に売り渡さない居住者(被告)に対して、区分所有法所定の売渡請求権を行使したとし同請求権行使によって売買契約が成立したと主張して、所有権に基づき、所有権移転登記手続等を請求した。被告らは、手続違反等による一括建替え決議の無効、消費者契約法8条ないしは10条による無効等を主張した。
【判断の内容】
(本件一括建替え決議の消費者契約法違反性について)被告らは、従前資産売買契約中の条項の消費者契約法違反をもって本件一括建替え決議の無効を主張するものであるが、従前資産売買契約は、本件一括建替え決議に基づく建替え計画実施の一部をなすものではあっても、本件一括建替え決議の内容をなすものではなく、従前資産売買契約の法令違反が直ちに本件一括建替え決議の違法や無効を帰結するものではないというべきであるし、従前資産売買契約が仮に法令違反で無効となったとしても、それが本件一括建替え決議の無効を帰結するものではないというべきである。また、消費者契約法8条ないし10条は、同条違反の条項を違反する範囲で無効とするものであって、当該消費者契約全体を無効とするものでないことは条文の文言に照らして明らかである。以上のとおりであるから、被告らの上記主張は採用することができない。
(なお、原告の被告らに対する本件各請求はいずれも理由があるとして、原告の被告らに対する所有権移転登記、明渡し請求を認めた)
◆ H16.07.08東京地裁判決
平成16年(ワ)第997号
判例マスター
裁判官 綿引万里子
【事案の概要】
ペットの犬を業者から購入したところ、1年10ヶ月経過後に突発性てんかんと診断されたことを理由に、債務不履行、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めた事案。業者の免責約款が8条1項1号、8条1項2号、10条により無効となるかが争われた。
【判断の内容】
1 本件は債務不履行にはならないが、突発性てんかんが遺伝的要因によって発症したものであるとすれば、隠れた瑕疵を有していたものとして業者は瑕疵担保責任を負担する。
2 8条1項5号は有償契約の瑕疵担保責任による賠償責任をすべて免除する条項を無効とするものであり、本件では、病気治療保障(購入日より2週間以内に発病し48時間以内に指定医に持ち込まれたときに治療費を負担)、先天的欠陥保障(購入日より3ヶ月以内又は生後5ヶ月以内に申し出があった場合代犬を提供する)があり、それ以外の場合を免責するものであり、すべてを免除するものではないから、同条項により無効となると解する余地はない。
3 保障部分を本件条項の場合に限定することは合理的理由があるから、民法1条2項の基本原則に違反するものとして10条に該当し、もしくは民法90条により無効であり、又は免責主張が信義則に反するとはいえない。
◆ H23.04.27名古屋地裁判決
平成21年(ワ)第4345号、第6059号不当利得返還等請求本訴、立替金請求反訴事件
最高裁HP、消費者法ニュース88号208頁
裁判官 長谷川恭弘
【事案の概要】
借家人が家賃支払を遅滞した場合に,保証委託契約が一度自動的に解除された上で更新され,その際に解除更新料を支払うなどとされた借家人と保証会社との保証委託契約における特約が消費者契約法10条により無効とされるとともに,保証会社が根拠不明の金銭を含め借家人に過分な支払をさせる行為や退去勧告を組織的に行っていたことが,社会通念上許容される限度を超えたもので,不法行為に該当するとされた事例
◆ H22.12.08神戸地裁判決
平成21年(ワ)第802号不当条項使用差止等請求事件
消費者庁HP(PDF)、ひょうご消費者ネットHP、判決写し(PDF、ひょうご消費者ネットHP)
裁判官 角隆博、大森直哉、谷池政洋
適格消費者団体 ひょうご消費者ネット
事業者 株式会社ジャルツアーズ(現商号株式会社ジャルパック)
控訴審 H23.06.07大阪高裁判決
上告審 H24.10.23最高裁決定(上告不受理)
【事案の概要】
適格消費者団体が、旅行業を営む株式会社ジャルツアーズに対し、株式会社日本航空インターナショナル(JAL)の発行する企業ポイントにより旅行代金等が決済された後の契約の取消しないし変更があった場合に、同企業ポイントの返還をしない旨の条項が、被告と消費者との間で締結する企画旅行契約における契約条項となっており、消費者契約法第10条及び第9条第1号に違反して無効であるとして、本件条項を含む契約の締結の差止め等を求めた事案。
【判断の内容】
本件条項は被告と消費者との間の旅行契約の内容となっているとは認めることができず、その余について判断するまでもなく、原告の請求に理由がない。
◆ H23.06.07大阪高裁判決
平成23年(ネ)第133号不当条項使用差止請求控訴事件
消費者庁HP(PDF)、判決写し(PDF、ひょうご消費者ネットHP)
裁判官 安原清蔵、坂倉充信、和田健
適格消費者団体 ひょうご消費者ネット
事業者 株式会社ジャルツアーズ(現商号株式会社ジャルパック)
第1審 H22.12.08神戸地裁判決
上告審 H24.10.23最高裁決定(上告不受理)
【事案の概要】
適格消費者団体が、旅行業を営む株式会社ジャルツアーズに対し、株式会社日本航空インターナショナル(JAL)の発行する企業ポイントにより旅行代金等が決済された後の契約の取消しないし変更があった場合に、同企業ポイントの返還をしない旨の条項が、被告と消費者との間で締結する企画旅行契約における契約条項となっており、消費者契約法第10条及び第9条第1号に違反して無効であるとして、本件条項を含む契約の締結の差止め等を求めた事案の控訴審。
【判断の内容】
① JALが発行する企業ポイントである「本件JMB特典2は、JALの利用実績等に応じてJALが発行するマイルを基礎とするものであり、その使用条件については、JMB会員である旅行者とJALとの間の契約関係によって定められているのであるから、本件条項がマイルや本件JMB特典の発行主体ではないジャルツアーズとの間の旅行契約の条項に含まれていると解することはできない」として否定した。
② 仮に、本件条項がジャルツアーズと旅行者との間の旅行契約の条項に含まれるとみることが可能であるとしても、本件JMB特典は、JALもしくはその提携企業を繰り返し利用する旅行者に特典を与えることによって顧客を誘引しようという目的のもとでJALが発行するものにすぎず、現金化が確実な自己宛小切手に類似する金銭債権と同様のものとみることができない以上、本件JMB特典を旅行契約の代金支払に利用した後に旅行契約が失効したとしても、旅行者と被控訴人又はJALとの間で不当利得関係が生じる余地はないとして否定した。
◆ H23.03.04大阪地裁判決
平成20年(ワ)第15684号不当利得金返還請求事件
判例時報2114号87頁
裁判官 小林康彦
【事案の概要】
認知症が進行していた92歳の独り暮らしの女性が、梵鐘の製作等を業とする業者との間で50トンの大梵鐘を製作する請負契約を締結し、代金3億円のうち2億円を支払ったが、当該契約が不実告知、不利益事実の不告知によって締結された等と主張して、返還請求をした事案。契約書作成前に支払われた2億円が、契約書において契約解除の場合には違約金として没収されるとなっていた条項の効力が争われた。
【判断の内容】
次の理由から、不利益事実の不告知による取消を認め、2億円の返還請求を認めた。
①4条2項の趣旨は、消費者が事業者の不適切な勧誘行為に影響されて自らの欲求の実現に適合しない契約を締結した場合には、民法上の詐欺が成立しないときであっても、消費者が当該契約に拘束されることは衡平を欠くことから、消費者に当該契約の効力を否定する手段を与えたもの。
②梵鐘の設置場所が未確定なまま巨大な梵鐘を、寺院でない一個人が注文するという極めて異例な契約内容であることから、契約書作成時点において契約が締結されたものというべき。
③前払い金2億円について、中途解約の場合違約金となることが契約書においてはじめて記載されており、趣旨が変わっているにもかかわらずそのことを告げた事実は認められない。このことは、重要事項にかかる不利益事実の不告知があるものとして、取消事由となるというべき。
◆ H23.03.24最高裁判決
平成21年(受)第1679号敷金返還等請求事件
最高裁HP、民集65巻2号903頁、判例時報2128号33頁、2145号154頁、NBL952号10頁
裁判官 金築誠志、宮川光治、櫻井龍子、横田尤孝、白木勇
原審 H21.06.19大阪高裁判決
【事案の概要】
居住用マンション一室の賃貸借契約の保証金(敷金)の返還請求事案。敷引条項が10条に違反するかが争われた。
【判断の内容】
① 通常損耗部分を借り主の負担とするものであり、10条前段要件を満たす。
② 10条後段要件について
敷引特約があり、金額が契約書に明示されている場合には,賃借人は,賃料の額に加え,敷引金額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって,賃借人の負担については明確に合意されている。
通常損耗等の補修費用は,賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても,これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面において,上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって,敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。
補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは,通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。
もっとも,消費者契約である賃貸借契約においては,賃借人は,通常,自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上,賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると,敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に,賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。
そうすると,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当。
③ 本件では、契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。
賃料は月額9万6000円であって,本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,借主は本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。
そうすると,本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。
◆ H23.01.27京都地裁判決
平成21年(ワ)第4688号更新料返還請求事件
未登載
裁判官 和久田斉
【事案の概要】
建物賃貸借契約の更新料返還請求。
【判断の内容】
次の理由から返還請求を認めた。
① 更新料の法的性質について、賃料の補充、更新拒絶権放棄の対価、空室損料の違約金のいずれも否定した。
② 10条前段、後段要件を満たす。
◆ H22.12.22京都地裁判決
平成21年(ワ)第4691号更新料返還請求事件
未登載
裁判官 橋本眞一
【事案の概要】
建物賃貸借契約の更新料の返還請求。消費者契約法施行前の契約が施行後に更新された事案で、消費者契約法の適用があるかも争われた。
【判断の内容】
次の理由から、返還請求を認めた。
① 賃貸借契約において,目的物を使用収益できる期間は契約の重要な要素であって,本件契約の契約期間も明記されているから,その期間の満了により契約関係は一旦終了し,本件更新料特約に基づいて,本件賃貸借契約を2年間更新する(契約期間を2年間として再契約する)旨の黙示の意思表示がされたものと認めるのが相当。
② 更新料の法的性質について、更新拒絶権放棄の対価、賃借権強化の対価、賃料の補充のいずれも否定。
③ 10条前段、後段要件を満たす。
④ 契約の核心的な合意内容については当事者間の自由に委ねるべきであるから消費者契約法の規制にはなじまないとの被告の主張については、本件更新料の法的性質を合理的に説明することができない以上,自由意思による合意の前提を欠いており採用できない。
◆ H22.09.16京都地裁判決
平成21年(ワ)第4702号更新料返還請求事件
未登載
裁判官 橋本眞一
【事案の概要】
建物賃貸借契約の更新料の返還請求。婚姻に伴って不要となった家を貸したことから「事業者」に当たるかも争われた。
【判断の内容】
次のとおり判断し、返還請求を認めた。
① 消費者契約法上の「事業」とは,「社会生活上の地位に基づき一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」であり,その事業のために契約の当事者となる場合における個人は消費者契約法上の「事業者」となる。
② 本件建物の賃貸は,必ずしも原告との関の本件賃貸借契約に基づく1回限りのものと予定されていたものではなく,被告において,本件建物に居住する必要性が生じない間,本件建物を賃貸する意思を有していたと推認され,現
に,原告の本件建物退去後,本件建物の賃借人を募集していることに照らしても,被告は「事業者」に当たる。
③ 本件の更新料の法的性質については、賃料の一部、更新拒絶権放棄の対価、賃借権強化の対価の法的性質は認められない。
④ 10条前段、後段要件を満たす。
◆ H22.06.29東京高裁判決
平成21年(ネ)第4582号,平成22年(ネ)第904号各受信料請求控訴,付帯控訴事件
LLI
裁判官 稲田龍樹,原啓一郎,近藤昌昭
【事案の概要】
NHKの受信料請求訴訟。受信機を廃止しない限り放送受信契約の解約を禁止している条項が10条違反かが争われた。
【判断の内容】
放送法32条が,他の法律に別段の定めがある場合にあたり,11条2項により,10条が適用される余地はないとした。
◆ H21.12.16東京地裁判決
平成21年(レ)第418号更新料請求控訴事件
LLI
裁判官 孝橋宏,安田大二郎,中澤亮
【事案の概要】
建物賃貸借契約について,法定更新の場合にも更新料(1ヶ月分)条項が適用されるとして,更新料請求がされた事案。同条項が10条違反かどうかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から更新料請求を棄却した。
① 本件更新料条項は,合意により本件賃貸借契約を更新する場合を念頭に置いて締結されたものと解するのが自然であり,約定の記載から,双方が合意更新されるか法定更新されるかにかかわらず更新の際には更新料が支払われるとの意思を有していたものとは認め難い。
② 法定更新の制度は,賃借人が期間満了後に土地又は建物の使用を継続している場合に,賃貸人に更新拒絶の正当事由が備わらない限り賃借人による使用継続という事実状態を保護して賃貸借契約を存続させようとするものであり,賃借人に何らの金銭的負担なしに更新の効果を享受させようとするのが法の趣旨。
③ 賃貸人からの請求があれば,当然に賃借人に更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在することを認めるに足りる証拠はない。
④ 賃借人が司法修習生でありあえて合意更新を拒んだとしても,本件事情の下で信義則違反とまでは断じがたい。
◆ H21.10.21東京地裁判決
平成20年(ワ)第5792号土地建物所有権移転仮登記抹消登記等請求事件
LLI
裁判官 佐藤英彦
【事案の概要】
有料老人ホームの入居契約における入居一時金の返還請求を含む事例。償却条項(償却期間60ヶ月,非返還対象分30%,返還対象分70%)が9条1号,10条に違反するかが争われた。
【判断の内容】
次の理由から,9条1号,10条違反にはならないとして,返還請求を棄却した。
① 非返還対象分は,有料老人ホームの入居契約の性質上当然に必要とされるものであり,想定利用期間経過後も新たな賃料相当額を負担せずに施設(専用居室及び共用施設)を利用する権利の対価としての性質を有する。
② 施設開設に関わる費用は,施設を利用する入居者全員が負担するものであるところ,非返還対象分は,かかる施設開設に関わる費用の負担分の性質をも有し,合理性がある。
③ 入居契約締結に先立ち,施設のパンフレットを見せられており,これを見ながら契約内容(入居一時金及び償却に関する説明を含む。)の説明を受け,償却条項の内容を了知していた。
◆ H21.10.29東京高裁判決
平成19年(ネ)第1353号,平成19年(ネ)第3025号各大学年金受給権確認請求控訴,同付帯控訴事件
判例時報2071号129頁,労働判例995号5頁
裁判官 青柳馨,小林敬子,大野和明
【事案の概要】
私立大学が年金規則(私的年金)を改定し年金を減額したことに対し,受給者(退職者やその遺族)である原告らが,改定前の年金額を受給する権利の確認請求をした事案。一方的な年金規則の改定で減額できることについて10条違反か等が争われた。
【判断の内容】
以下の理由から10条違反ではないとされた。
① 本件年金契約は終身定期金契約に類似した契約であるが,本件年金規則には,本件年金制度が超長期にわたり継続することを考慮して,経済変動や本件年金基金の財政状況等により本件年金制度の維持・存続のために必要な合理的な変更を許容する定めが置かれているのであって,給付内容を含め契約内容の変更があり得ない契約でないことは明らか。
② 本件年金制度における大学の拠出は,教職員の福利厚生,功労報償としての性格が強いもので,積立不足が生じた場合に大学がこれを負担すべきものとはされていない。
③ 本件年金規則の改正により給付額の減額が可能であったからといって,大学が何らの制限も受けず,自由に本件年金規則の規定を改定することは許されず,本件年金制度の維持,存続のため,あるいは同制度の目的を達成するため,合理的な裁量の範囲に限って改定が許されるにすぎない。
◆ H22.04.26東京地裁判決
平成21年(レ)第445号更新料支払等請求控訴事件
LLI
裁判官 澤野芳夫,大原純平,野中伸子
【事案の概要】
建物賃貸借契約における更新料請求。賃借人が外国語授業を業とする株式会社であり,連帯保証人が代表取締役となっていた。10条類推適用の有無が争われた。
【判断の内容】
以下のように判断し,類推適用を否定した。
消費者契約法は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ,一定の場合に消費者を保護することを目的とする法律である(同法1条)。確かに,事業者同士であっても,その事業の内容により,情報及び交渉力に格差が存在する場合がある。しかしながら,消費者契約法は,法人その他の団体や事業として又は事業のために契約の当事者となる個人は,その事業の内容にかかわらず,自らの事業を実施する上で行う取引に関しては,情報を収集し,また交渉力を備えることが十分に期待できることから,その事業の内容を特段考慮せず「消費者」と「事業者」を明確な基準により分け(同法2条),「消費者」を保護の対象とし「事業者」を保護対象から外したものと解される。そうすると,仮に契約の一方当事者である事業者が,他方当事者である事業者と比べ,相対的に当該契約締結に関し情報及び交渉力の点で劣っていたとしても,当該契約に同法は類推適用されないと解すべきである。
◆ H20.12.24東京地裁判決
平成20年(ワ)第18864号建物明渡請求事件
LLI
裁判官 笠井勝彦
【事案の概要】
建物の定期借家契約が終了した後,明け渡しまでの明渡遅延使用料(賃料の倍額)の支払を求めた事案。
「賃借人が本件契約終了と同時に本件建物を明け渡さない場合,賃貸人の請求により,終了の翌日から明渡しに至るまで,賃料の倍額及び管理費に相当する額の使用料を支払わなければならない」との条項が9条1号,10条に反しないかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から,9条1号,10条違反ではないとして,明渡遅延使用料の支払いを認めた。
① 9条1号は,消費者契約の解除に伴う損害賠償の予定又は違約金を定める条項に関する規定であるところ,本件規定はそのような条項ではないから,同号の適用はない。
② 明け渡しのために債務名義取得,強制執行には時間と費用がかかること,賃借人が明渡義務を果たさない場合に備えておくために従前の対価等以上の支払をしなければならないという経済的不利益を予定することは合理的であり,賃借人が上記義務を履行すれば不利益は現実化しないのであるから賃借人の利益を一方的に害するものではなく合理性がある。
③ 賃借人が従前と同じ経済的負担をすれば目的物の使用収益を継続できるとするのは契約の終了と整合しない不合理な事態であり,賃借人に返還義務の履行を困難にさせる経済的事情等があるとしても,その事情等が解消するまで賃貸人の犠牲において同義務の履行を免れさせるべき理由はない。
④ 本件規定は,契約書上に明記されており,これが賃借人の明渡義務の適時の履行の誘引として定められたものであることは明らか。これによって賃借人が受ける不利益は,賃料相当額の負担増だけであり,しかもそれは賃借人が上記義務を履行すれば発生しないのであって,賃貸人が暴利を得るために本件規定が定められたものでないことも明らか。
⑤ 賃借人が本件建物を居所としていたとしても,本件契約が終了すればその使用収益ができなくなるのは当然。
◆ H22.10.29京都地裁判決
平成21年(ワ)第4693号更新料返還請求事件
判例タイムズ1334号100頁
裁判官 大島眞一
【事案の概要】
マンションの一室について,過去3回にわたって支払った更新料30万円及び遅延損害金の返還を請求した事案。更新料特約が9条1号、10条に違反しないか争われた。
【判断の内容】
以下の理由から、更新料返還請求を棄却した。
① 従来,賃貸借契約においては,賃貸借契約が解約されることがないように賃借権の保護がされてきたが,本件のような居住用賃貸建物においては,賃貸人が賃貸借契約期間中に解約をすることはまず考えられず,賃借権を強化するよりも,賃借人において,転勤等の理由によって転居しなければならないことがあるので,いつでも賃貸借契約を解約できることを認め,解約した場合には,更新料が次の賃借人が見つかるまで空室となって賃料収入が入らないことのいわば補償(賃借人からみると違約金)として扱われ,期間が満了した場合には更新料は賃料として扱われることになると考えるのが,居住用賃貸建物における更新料の実態に最も適合する。
したがって,更新料を授受した時点では,いまだ更新料の法的な性質は確定しておらず,期間が満了した場合には賃料に,賃借人が途中で解約した場合には既経過部分については賃料に,未経過分は違約金として扱われることになり,純粋に民法601条にいう「賃料」ではないので,賃貸人が賃借人に対し更新料の未経過分を返還しないことに問題はない。
② 10条前段には該当する。
③ 10条後段には該当しない。更新料は,賃貸借契約期間中の途中解約がない限り,賃貸期間全体に対する前払いの賃料に該当するものであるところ,賃料は必ず月額で定めなければならないものではなく,更新料名目で賃貸借契約の更新時に賃料の一部を一時払として支払を求めることは不合理なものではない。賃借人が賃貸借契約を期間途中で解約した場合には,既経過部分は賃料に未経過部分は違約金に相当するところ,合理性がある。
④ 9条1号には該当しない。次の入居人が決まるまでの賃料収入が途絶えることになるが、1カ月程度であれば賃借人に負担させることに合理性がある。
◆ H22.09.16神戸地裁判決
平成22年(レ)第183号違約金請求控訴事件
未登載
裁判官 栂村明剛,木太伸広,藪田貴史
原審 神戸簡裁平成21年(少コ)第116号
【事案の概要】
結婚式及び結婚披露宴を開催する契約を締結し、同結婚式等で使用する予定であったウェディングドレスの売買契約(セミオーダー)もあわせて契約した。このドレス売買契約については、契約してから10日までは自由にキャンセルできるが、それ以降のキャンセルの場合、売買代金100%の違約金が発生するという条項があり、その点についての確認書が取られていた。
ところが、結婚式等当日の84日前,ドレス契約日から35日後に,消費者の申出により結婚式等の開催契約が解除された。
そこで、結婚式場が、主位的に売買代金請求、予備的に違約金請求として,売買代金(ないし違約金)31万5000円の支払を求めた。
【判断の内容】
結婚式場が、本件ドレスの製作代金としてメーカーに支払った金額は,11万3400円であり、それ以上の積極的損害を何ら具体的に主張していないことにも鑑みると,結婚式場に生じた本件ドレス契約の効力喪失に伴う積極的損害はそれに尽きているとみることができる。
本件ドレスの発注についても実質的にはメーカーと消費者との間を媒介しているにすぎないとみられることから,メーカーからの仕入代金と本件ドレスの代金との差額を逸失利益として結婚式場に生ずべき平均的な損害に算入することは相当ではないとし、本件ドレス契約の解除に伴い結婚式場に生ずべき平均的な損害額は,結婚式場がメーカーに対して支払った金額と同額の11万3400円であると認めるのが相当である。
したがって,本件取消料条項のうち11万3400円を超える額の違約金の部分は、9条1号により無効。