「2011年2月」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H23.01.27京都地裁判決
平成21年(ワ)第4688号更新料返還請求事件
未登載
裁判官 和久田斉
【事案の概要】
建物賃貸借契約の更新料返還請求。
【判断の内容】
次の理由から返還請求を認めた。
① 更新料の法的性質について、賃料の補充、更新拒絶権放棄の対価、空室損料の違約金のいずれも否定した。
② 10条前段、後段要件を満たす。
◆ H22.12.22京都地裁判決
平成21年(ワ)第4691号更新料返還請求事件
未登載
裁判官 橋本眞一
【事案の概要】
建物賃貸借契約の更新料の返還請求。消費者契約法施行前の契約が施行後に更新された事案で、消費者契約法の適用があるかも争われた。
【判断の内容】
次の理由から、返還請求を認めた。
① 賃貸借契約において,目的物を使用収益できる期間は契約の重要な要素であって,本件契約の契約期間も明記されているから,その期間の満了により契約関係は一旦終了し,本件更新料特約に基づいて,本件賃貸借契約を2年間更新する(契約期間を2年間として再契約する)旨の黙示の意思表示がされたものと認めるのが相当。
② 更新料の法的性質について、更新拒絶権放棄の対価、賃借権強化の対価、賃料の補充のいずれも否定。
③ 10条前段、後段要件を満たす。
④ 契約の核心的な合意内容については当事者間の自由に委ねるべきであるから消費者契約法の規制にはなじまないとの被告の主張については、本件更新料の法的性質を合理的に説明することができない以上,自由意思による合意の前提を欠いており採用できない。
◆ H22.09.16京都地裁判決
平成21年(ワ)第4702号更新料返還請求事件
未登載
裁判官 橋本眞一
【事案の概要】
建物賃貸借契約の更新料の返還請求。婚姻に伴って不要となった家を貸したことから「事業者」に当たるかも争われた。
【判断の内容】
次のとおり判断し、返還請求を認めた。
① 消費者契約法上の「事業」とは,「社会生活上の地位に基づき一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行」であり,その事業のために契約の当事者となる場合における個人は消費者契約法上の「事業者」となる。
② 本件建物の賃貸は,必ずしも原告との関の本件賃貸借契約に基づく1回限りのものと予定されていたものではなく,被告において,本件建物に居住する必要性が生じない間,本件建物を賃貸する意思を有していたと推認され,現
に,原告の本件建物退去後,本件建物の賃借人を募集していることに照らしても,被告は「事業者」に当たる。
③ 本件の更新料の法的性質については、賃料の一部、更新拒絶権放棄の対価、賃借権強化の対価の法的性質は認められない。
④ 10条前段、後段要件を満たす。
◆ H22.06.29東京高裁判決
平成21年(ネ)第4582号,平成22年(ネ)第904号各受信料請求控訴,付帯控訴事件
LLI
裁判官 稲田龍樹,原啓一郎,近藤昌昭
【事案の概要】
NHKの受信料請求訴訟。受信機を廃止しない限り放送受信契約の解約を禁止している条項が10条違反かが争われた。
【判断の内容】
放送法32条が,他の法律に別段の定めがある場合にあたり,11条2項により,10条が適用される余地はないとした。
◆ H21.12.16東京地裁判決
平成21年(レ)第418号更新料請求控訴事件
LLI
裁判官 孝橋宏,安田大二郎,中澤亮
【事案の概要】
建物賃貸借契約について,法定更新の場合にも更新料(1ヶ月分)条項が適用されるとして,更新料請求がされた事案。同条項が10条違反かどうかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から更新料請求を棄却した。
① 本件更新料条項は,合意により本件賃貸借契約を更新する場合を念頭に置いて締結されたものと解するのが自然であり,約定の記載から,双方が合意更新されるか法定更新されるかにかかわらず更新の際には更新料が支払われるとの意思を有していたものとは認め難い。
② 法定更新の制度は,賃借人が期間満了後に土地又は建物の使用を継続している場合に,賃貸人に更新拒絶の正当事由が備わらない限り賃借人による使用継続という事実状態を保護して賃貸借契約を存続させようとするものであり,賃借人に何らの金銭的負担なしに更新の効果を享受させようとするのが法の趣旨。
③ 賃貸人からの請求があれば,当然に賃借人に更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在することを認めるに足りる証拠はない。
④ 賃借人が司法修習生でありあえて合意更新を拒んだとしても,本件事情の下で信義則違反とまでは断じがたい。
◆ H21.10.21東京地裁判決
平成20年(ワ)第5792号土地建物所有権移転仮登記抹消登記等請求事件
LLI
裁判官 佐藤英彦
【事案の概要】
有料老人ホームの入居契約における入居一時金の返還請求を含む事例。償却条項(償却期間60ヶ月,非返還対象分30%,返還対象分70%)が9条1号,10条に違反するかが争われた。
【判断の内容】
次の理由から,9条1号,10条違反にはならないとして,返還請求を棄却した。
① 非返還対象分は,有料老人ホームの入居契約の性質上当然に必要とされるものであり,想定利用期間経過後も新たな賃料相当額を負担せずに施設(専用居室及び共用施設)を利用する権利の対価としての性質を有する。
② 施設開設に関わる費用は,施設を利用する入居者全員が負担するものであるところ,非返還対象分は,かかる施設開設に関わる費用の負担分の性質をも有し,合理性がある。
③ 入居契約締結に先立ち,施設のパンフレットを見せられており,これを見ながら契約内容(入居一時金及び償却に関する説明を含む。)の説明を受け,償却条項の内容を了知していた。
◆ H21.10.29東京高裁判決
平成19年(ネ)第1353号,平成19年(ネ)第3025号各大学年金受給権確認請求控訴,同付帯控訴事件
判例時報2071号129頁,労働判例995号5頁
裁判官 青柳馨,小林敬子,大野和明
【事案の概要】
私立大学が年金規則(私的年金)を改定し年金を減額したことに対し,受給者(退職者やその遺族)である原告らが,改定前の年金額を受給する権利の確認請求をした事案。一方的な年金規則の改定で減額できることについて10条違反か等が争われた。
【判断の内容】
以下の理由から10条違反ではないとされた。
① 本件年金契約は終身定期金契約に類似した契約であるが,本件年金規則には,本件年金制度が超長期にわたり継続することを考慮して,経済変動や本件年金基金の財政状況等により本件年金制度の維持・存続のために必要な合理的な変更を許容する定めが置かれているのであって,給付内容を含め契約内容の変更があり得ない契約でないことは明らか。
② 本件年金制度における大学の拠出は,教職員の福利厚生,功労報償としての性格が強いもので,積立不足が生じた場合に大学がこれを負担すべきものとはされていない。
③ 本件年金規則の改正により給付額の減額が可能であったからといって,大学が何らの制限も受けず,自由に本件年金規則の規定を改定することは許されず,本件年金制度の維持,存続のため,あるいは同制度の目的を達成するため,合理的な裁量の範囲に限って改定が許されるにすぎない。
◆ H22.04.26東京地裁判決
平成21年(レ)第445号更新料支払等請求控訴事件
LLI
裁判官 澤野芳夫,大原純平,野中伸子
【事案の概要】
建物賃貸借契約における更新料請求。賃借人が外国語授業を業とする株式会社であり,連帯保証人が代表取締役となっていた。10条類推適用の有無が争われた。
【判断の内容】
以下のように判断し,類推適用を否定した。
消費者契約法は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ,一定の場合に消費者を保護することを目的とする法律である(同法1条)。確かに,事業者同士であっても,その事業の内容により,情報及び交渉力に格差が存在する場合がある。しかしながら,消費者契約法は,法人その他の団体や事業として又は事業のために契約の当事者となる個人は,その事業の内容にかかわらず,自らの事業を実施する上で行う取引に関しては,情報を収集し,また交渉力を備えることが十分に期待できることから,その事業の内容を特段考慮せず「消費者」と「事業者」を明確な基準により分け(同法2条),「消費者」を保護の対象とし「事業者」を保護対象から外したものと解される。そうすると,仮に契約の一方当事者である事業者が,他方当事者である事業者と比べ,相対的に当該契約締結に関し情報及び交渉力の点で劣っていたとしても,当該契約に同法は類推適用されないと解すべきである。
◆ H20.12.24東京地裁判決
平成20年(ワ)第18864号建物明渡請求事件
LLI
裁判官 笠井勝彦
【事案の概要】
建物の定期借家契約が終了した後,明け渡しまでの明渡遅延使用料(賃料の倍額)の支払を求めた事案。
「賃借人が本件契約終了と同時に本件建物を明け渡さない場合,賃貸人の請求により,終了の翌日から明渡しに至るまで,賃料の倍額及び管理費に相当する額の使用料を支払わなければならない」との条項が9条1号,10条に反しないかが争われた。
【判断の内容】
以下の理由から,9条1号,10条違反ではないとして,明渡遅延使用料の支払いを認めた。
① 9条1号は,消費者契約の解除に伴う損害賠償の予定又は違約金を定める条項に関する規定であるところ,本件規定はそのような条項ではないから,同号の適用はない。
② 明け渡しのために債務名義取得,強制執行には時間と費用がかかること,賃借人が明渡義務を果たさない場合に備えておくために従前の対価等以上の支払をしなければならないという経済的不利益を予定することは合理的であり,賃借人が上記義務を履行すれば不利益は現実化しないのであるから賃借人の利益を一方的に害するものではなく合理性がある。
③ 賃借人が従前と同じ経済的負担をすれば目的物の使用収益を継続できるとするのは契約の終了と整合しない不合理な事態であり,賃借人に返還義務の履行を困難にさせる経済的事情等があるとしても,その事情等が解消するまで賃貸人の犠牲において同義務の履行を免れさせるべき理由はない。
④ 本件規定は,契約書上に明記されており,これが賃借人の明渡義務の適時の履行の誘引として定められたものであることは明らか。これによって賃借人が受ける不利益は,賃料相当額の負担増だけであり,しかもそれは賃借人が上記義務を履行すれば発生しないのであって,賃貸人が暴利を得るために本件規定が定められたものでないことも明らか。
⑤ 賃借人が本件建物を居所としていたとしても,本件契約が終了すればその使用収益ができなくなるのは当然。
◆ H22.10.29京都地裁判決
平成21年(ワ)第4693号更新料返還請求事件
判例タイムズ1334号100頁
裁判官 大島眞一
【事案の概要】
マンションの一室について,過去3回にわたって支払った更新料30万円及び遅延損害金の返還を請求した事案。更新料特約が9条1号、10条に違反しないか争われた。
【判断の内容】
以下の理由から、更新料返還請求を棄却した。
① 従来,賃貸借契約においては,賃貸借契約が解約されることがないように賃借権の保護がされてきたが,本件のような居住用賃貸建物においては,賃貸人が賃貸借契約期間中に解約をすることはまず考えられず,賃借権を強化するよりも,賃借人において,転勤等の理由によって転居しなければならないことがあるので,いつでも賃貸借契約を解約できることを認め,解約した場合には,更新料が次の賃借人が見つかるまで空室となって賃料収入が入らないことのいわば補償(賃借人からみると違約金)として扱われ,期間が満了した場合には更新料は賃料として扱われることになると考えるのが,居住用賃貸建物における更新料の実態に最も適合する。
したがって,更新料を授受した時点では,いまだ更新料の法的な性質は確定しておらず,期間が満了した場合には賃料に,賃借人が途中で解約した場合には既経過部分については賃料に,未経過分は違約金として扱われることになり,純粋に民法601条にいう「賃料」ではないので,賃貸人が賃借人に対し更新料の未経過分を返還しないことに問題はない。
② 10条前段には該当する。
③ 10条後段には該当しない。更新料は,賃貸借契約期間中の途中解約がない限り,賃貸期間全体に対する前払いの賃料に該当するものであるところ,賃料は必ず月額で定めなければならないものではなく,更新料名目で賃貸借契約の更新時に賃料の一部を一時払として支払を求めることは不合理なものではない。賃借人が賃貸借契約を期間途中で解約した場合には,既経過部分は賃料に未経過部分は違約金に相当するところ,合理性がある。
④ 9条1号には該当しない。次の入居人が決まるまでの賃料収入が途絶えることになるが、1カ月程度であれば賃借人に負担させることに合理性がある。