「2011年」アーカイブ|消費者契約法判例集
◆ H23.06.07大阪高裁判決
平成23年(ネ)第133号不当条項使用差止請求控訴事件
消費者庁HP(PDF)、判決写し(PDF、ひょうご消費者ネットHP)
裁判官 安原清蔵、坂倉充信、和田健
適格消費者団体 ひょうご消費者ネット
事業者 株式会社ジャルツアーズ(現商号株式会社ジャルパック)
第1審 H22.12.08神戸地裁判決
上告審 H24.10.23最高裁決定(上告不受理)
【事案の概要】
適格消費者団体が、旅行業を営む株式会社ジャルツアーズに対し、株式会社日本航空インターナショナル(JAL)の発行する企業ポイントにより旅行代金等が決済された後の契約の取消しないし変更があった場合に、同企業ポイントの返還をしない旨の条項が、被告と消費者との間で締結する企画旅行契約における契約条項となっており、消費者契約法第10条及び第9条第1号に違反して無効であるとして、本件条項を含む契約の締結の差止め等を求めた事案の控訴審。
【判断の内容】
① JALが発行する企業ポイントである「本件JMB特典2は、JALの利用実績等に応じてJALが発行するマイルを基礎とするものであり、その使用条件については、JMB会員である旅行者とJALとの間の契約関係によって定められているのであるから、本件条項がマイルや本件JMB特典の発行主体ではないジャルツアーズとの間の旅行契約の条項に含まれていると解することはできない」として否定した。
② 仮に、本件条項がジャルツアーズと旅行者との間の旅行契約の条項に含まれるとみることが可能であるとしても、本件JMB特典は、JALもしくはその提携企業を繰り返し利用する旅行者に特典を与えることによって顧客を誘引しようという目的のもとでJALが発行するものにすぎず、現金化が確実な自己宛小切手に類似する金銭債権と同様のものとみることができない以上、本件JMB特典を旅行契約の代金支払に利用した後に旅行契約が失効したとしても、旅行者と被控訴人又はJALとの間で不当利得関係が生じる余地はないとして否定した。
◆ H23.04.27名古屋地裁判決
平成21年(ワ)第4345号、第6059号不当利得返還等請求本訴、立替金請求反訴事件
最高裁HP、消費者法ニュース88号208頁
裁判官 長谷川恭弘
【事案の概要】
借家人が家賃支払を遅滞した場合に,保証委託契約が一度自動的に解除された上で更新され,その際に解除更新料を支払うなどとされた借家人と保証会社との保証委託契約における特約が消費者契約法10条により無効とされるとともに,保証会社が根拠不明の金銭を含め借家人に過分な支払をさせる行為や退去勧告を組織的に行っていたことが,社会通念上許容される限度を超えたもので,不法行為に該当するとされた事例
◆ H23.03.24最高裁判決
平成21年(受)第1679号敷金返還等請求事件
最高裁HP、民集65巻2号903頁、判例時報2128号33頁、2145号154頁、NBL952号10頁
裁判官 金築誠志、宮川光治、櫻井龍子、横田尤孝、白木勇
原審 H21.06.19大阪高裁判決
【事案の概要】
居住用マンション一室の賃貸借契約の保証金(敷金)の返還請求事案。敷引条項が10条に違反するかが争われた。
【判断の内容】
① 通常損耗部分を借り主の負担とするものであり、10条前段要件を満たす。
② 10条後段要件について
敷引特約があり、金額が契約書に明示されている場合には,賃借人は,賃料の額に加え,敷引金額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって,賃借人の負担については明確に合意されている。
通常損耗等の補修費用は,賃料にこれを含ませてその回収が図られているのが通常だとしても,これに充てるべき金員を敷引金として授受する旨の合意が成立している場合には,その反面において,上記補修費用が含まれないものとして賃料の額が合意されているとみるのが相当であって,敷引特約によって賃借人が上記補修費用を二重に負担するということはできない。
補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは,通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から,あながち不合理なものとはいえず,敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。
もっとも,消費者契約である賃貸借契約においては,賃借人は,通常,自らが賃借する物件に生ずる通常損耗等の補修費用の額については十分な情報を有していない上,賃貸人との交渉によって敷引特約を排除することも困難であることからすると,敷引金の額が敷引特約の趣旨からみて高額に過ぎる場合には,賃貸人と賃借人との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差を背景に,賃借人が一方的に不利益な負担を余儀なくされたものとみるべき場合が多いといえる。
そうすると,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当。
③ 本件では、契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。
賃料は月額9万6000円であって,本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,借主は本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。
そうすると,本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。
◆ H23.03.18大阪簡裁判決
平成22年(ハ)第27941号不当利得返還請求事件
消費者法ニュース88号276頁
裁判官 篠田隆夫
【事案の概要】
建物賃貸借契約で、礼金が10条違反であるとして不当利得返還請求をした事案。礼金12万円、期間1年の契約で1カ月と8日のみ使用し退去した。
【判断の内容】
以下の理由から、礼金12万円のうち、3万円を控除した9万円の返還を命じた。
① 礼金は、実質的には賃借人に建物を使用収益させる対価(広義の賃料)であるが、その他にもその程度は気迫ではあるものの賃借権設定の対価や契約締結の謝礼という性質をも有している。一定の合理性を有する金銭給付であり、礼金特約を締結すること自体が「民法1条2項に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であるとはいえない。
② 礼金は実質的に前払い賃料であるから、予定した期間が経過する前に退去した場合は、建物未使用期間に対応する前払い賃料を返還するべきことは当然。礼金は返還しないという合意は、契約基幹系構え退去の場合に前払い分賃料相当額が返還されないとする部分について消費者の利益を一方的に害するものとして10条により一部無効というべきである。
◆ H23.03.04大阪地裁判決
平成20年(ワ)第15684号不当利得金返還請求事件
判例時報2114号87頁
裁判官 小林康彦
【事案の概要】
認知症が進行していた92歳の独り暮らしの女性が、梵鐘の製作等を業とする業者との間で50トンの大梵鐘を製作する請負契約を締結し、代金3億円のうち2億円を支払ったが、当該契約が不実告知、不利益事実の不告知によって締結された等と主張して、返還請求をした事案。契約書作成前に支払われた2億円が、契約書において契約解除の場合には違約金として没収されるとなっていた条項の効力が争われた。
【判断の内容】
次の理由から、不利益事実の不告知による取消を認め、2億円の返還請求を認めた。
①4条2項の趣旨は、消費者が事業者の不適切な勧誘行為に影響されて自らの欲求の実現に適合しない契約を締結した場合には、民法上の詐欺が成立しないときであっても、消費者が当該契約に拘束されることは衡平を欠くことから、消費者に当該契約の効力を否定する手段を与えたもの。
②梵鐘の設置場所が未確定なまま巨大な梵鐘を、寺院でない一個人が注文するという極めて異例な契約内容であることから、契約書作成時点において契約が締結されたものというべき。
③前払い金2億円について、中途解約の場合違約金となることが契約書においてはじめて記載されており、趣旨が変わっているにもかかわらずそのことを告げた事実は認められない。このことは、重要事項にかかる不利益事実の不告知があるものとして、取消事由となるというべき。